ラーンの粗雑な斧の音がビレーの街並みと融合し、イシェの鋭い視線は近くの市場の喧騒を縫うようにして遺跡へと向かっていた。今日の依頼主であるテルヘルが約束した報酬は魅力的だった。だが、イシェには何かが不気味に溶け合っているような感覚があった。
「準備はいいぞ?」ラーンの豪快な声と、テルヘルの冷たい視線が重なり合う。イシェは小さく頷き、遺跡の入り口へと足を踏み入れた。石造りの通路は薄暗く、湿った冷気が肌を刺すように感じた。
テルヘルが先頭を切り、ラーンとイシェは後ろから続く。彼女の足取りは確実で、まるでこの遺跡の構造を熟知しているかのようにスムーズだった。イシェは不安を感じながらも、テルヘルの背中に溶け込むように歩を進めた。
遺跡内部は複雑に枝分かれしており、迷路のような構造になっていた。ラーンの無謀な行動に何度もイシェが制止をかけるが、彼はまるで興奮しているかのようだった。
「よし!何か見つかったぞ!」ラーンの声が響き渡る。イシェが駆け寄ると、ラーンは石の板をこじ開け、中から輝く青い宝石を取り出していた。
「これは…!」イシェは目を丸くした。この宝石はかつてヴォルダンに奪われたという伝説の遺物だった。テルヘルは冷静な表情で宝石を受け取り、ラーンの肩に手を置いた。
「よくやった。これで我々の計画は大きく前進する」と、テルヘルは冷たく微笑んだ。イシェは二人の姿を見て、何かが溶け合っていくように感じた。それは希望ではなく、影のようなものだった。
イシェは不安を胸に秘めながら、遺跡の奥深くへと続く通路を見つめた。