「よし、今回はあの崩れかけた塔だ」ラーンが地図を広げ、興奮気味に指さした。イシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所か？あの塔は崩落寸前だって聞いたぞ。安全対策を講じる必要もあるだろう」
「大丈夫大丈夫、イシェ。俺が先頭を切って安全を確認するから。ほら、テルヘルさんも言うてないか？」ラーンは振り返り、テルヘルに期待したような顔をした。
テルヘルは冷たい目で地図を見据えていた。「塔内に何かある可能性が高い。特に地下部分だ。危険は承知の上で入ることになる」彼女の言葉は冷静かつ鋭く、ラーンの期待を打ち砕いた。
イシェはため息をつきながら準備を始めた。ラーンの無謀な行動にいつもハラハラするが、彼の楽観的な明るさと仲間への情には心を動かされるものがある。それに、テルヘルの依頼を断るわけにもいかない。高額な日当と引き換えに、危険な遺跡探索をするのだ。
崩れかけた塔の入り口に立つと、ラーンの顔色が変わった。「なんか…不気味だな」彼の声は少し震えていた。イシェも不吉な予感を感じた。塔の周りには奇妙な静けさが漂い、空気を冷たくするような邪悪なオーラが漂っているようだった。
「気にすんなよラーン！」テルヘルが鋭い眼光で周囲を警戒しながら言った。「迷わず進もう」
塔内部は薄暗く、埃っぽい空気が流れ込んだ。崩れかけた石畳を慎重に進む一行。突然、壁から不気味な音が響き渡った。ラーンの顔が蒼白になった。「なんだあれ…！」
「気をつけろ！」イシェが叫んだ瞬間、床が崩れ、ラーンは深い穴に落ちていった。
「ラーン！」イシェとテルヘルが同時に叫んだ。穴の奥からはかすかなラーンの声が聞こえた。「大丈夫だ！俺は生きてる！」しかし、その声は不安定で、恐怖の色が濃厚だった。
イシェはすぐにロープを下ろしてラーンを助け上げた。彼は顔面蒼白で息を切らしていた。「あの…あの時、何か光るものが見えたんだ…」と震える声で言った。
「何だ？」テルヘルが鋭く問いかけた。
ラーンの瞳に恐怖の色が宿りながら、「あの光…ヴォルダンと同じ紋章だった…」彼は呟いた。イシェは息を呑んだ。ヴォルダンは、テルヘルの復讐の対象であり、彼らの前に常に影のように迫っていた存在だ。その紋章が遺跡で見つかった意味はあまりにも大きすぎる。
「これは…」テルヘルは目つきを鋭くし、ゆっくりと口を開いた。「俺たちの目的以上の何かが動いているようだ」彼女の言葉に、イシェは背筋が凍りつくのを感じた。ラーンの無謀な行動が招いた危険は、想像を絶するほど大きかったのだ。
そして、この遺跡探検は単なる財宝探しではなく、テルヘルの復讐劇、そしてヴォルダンとの戦いの火種となることを予感させ、イシェの心に深い溜飲を味わわせた。