ラーンの大きな手で揺さぶられる錆びた扉は、轟音と共に崩れ落ちた。埃っぽい空気が充満し、ラーンとイシェの咳が響く。
「よし、今回は大穴だ！」
ラーンはいつものように豪語するが、イシェは眉間にシワを寄せた。「ここは以前から調査済みではないか？ 何度も何も見つからないのに…」
「おいおい、イシェ。そんなこと言ってる場合じゃないだろ！ほら、テルヘルさん、どうだ？」
ラーンの視線がテルヘルに向かう。彼女はいつものように冷静に周囲を警戒していた。彼女の鋭い眼光は、埃っぽい遺跡の奥深くまで届いているようだった。
「ここには何かある」とテルヘルは静かに言った。「私は確信している」
彼女の言葉に、イシェも少しだけ期待を抱いた。テルヘルには、いつも何かを感じ取っているような気がしたのだ。
彼らは慎重に遺跡の中を進んでいった。狭い通路を抜けると、そこは広大な地下空間だった。天井からは鍾乳石が垂れ下がっていて、まるで巨大な森のようだった。その中心には、ひび割れた石の台座があった。
「これは…」イシェは目を丸くした。「かつての祭壇だ」
ラーンは興奮気味に近づこうとしたが、テルヘルが彼を制止した。
「待て。何かがおかしい」
彼女は台座に手を触れ、静かに目を閉じた。すると、彼女の表情が曇った。
「ここは危険だ。何か邪悪なものが潜んでいる」
その時、床から湧き上がるように水が噴出した。それは澄んだ水ではなく、黒く濁った不気味な水だった。そして、その水は急速に広がり、空間を満たしていく。
「逃げろ！」
テルヘルの叫びと共に、三人は必死に逃げるが、黒い水は容赦なく彼らを追いかけてくる。ラーンの足がつまずき、イシェが手を伸ばすも届かなかった。その時、ラーンは何かを掴んだ。それは、祭壇の近くに置かれた小さな石の壺だった。
「これだ！」
ラーンの叫び声と共に、壺から光が放たれた。黒い水は光に触れて蒸発し、空間は一瞬にして明るくなった。
壺を開けると、そこには透き通るような青い水が満ちていた。それはまるで、この遺跡の奥深くで湧き上がる泉の水のように清らかだった。
「これは…」イシェが息を呑んだ。「この水こそ、大穴なのかもしれない」