ビレーの朝はいつも薄霧に包まれていた。ラーンはイシェを起こす代わりに、近くの泉から水を汲んできて顔にぶっかけていた。イシェはいつものように、寝ぼけ眼で文句を垂れながら起き上がった。
「今日はテルヘルが来る日だぞ」とラーンは笑った。「いい遺跡が見つかるといいな。あの女は金払いが良いんだ」
イシェはため息をつきながら、荷造りを始めた。「大穴」という夢に囚われたラーンの様子を、彼女はいつもどこか悲しげに見つめていた。
テルヘルは約束通り、朝日に照らされた丘の上から現れた。黒曜石のような瞳が、ラーンとイシェを見据えるように光っていた。
「今日は、あの山脈の奥にある遺跡だ」とテルヘルは地図を広げて言った。「古い記録によると、そこはヴォルダンが探している遺物があるらしい。我々が先に手に入れれば、大きな利益になるだろう」
ラーンの顔は興奮で赤くなった。「よし！準備はいいぞ！」
イシェは不安を感じながらも、二人に続いて山脈へ向かった。道中、何時間も歩き続けるうちに、足元から湧き出す温かい水蒸気が二人を包み始めた。硫黄の臭いが鼻腔をくすぐる。
「ここは以前から湧出地として知られている場所だ」とイシェは言った。「遺跡に近づくにつれて、この熱気はもっと強くなるだろう」
ラーンは気にせず、熱気に負けずに歩き続けた。テルヘルは鋭い視線で周囲を警戒しながら歩いていた。
遺跡の入り口は、岩肌に開かれた大きな穴だった。そこから熱い風が吹き出すと共に、奇妙な光が滲んで見える。
「気をつけろ」とテルヘルが警告した。「この遺跡は危険だ」
ラーンが最初に中に入ろうとしたその時、イシェは彼の腕を掴んだ。
「待て！」
彼女は顔をしかめて言った。「何か変だ。ここには何かいる」
すると、穴の中から不気味な音が聞こえてきた。まるで何者かが苦しげに叫んでいるような音だった。その瞬間、地面が激しく揺れ始めた。
ラーンとイシェはバランスを崩して転倒した。テルヘルは剣を抜いて周囲を見回ったが、何も見えなかった。しかし、熱い風がさらに強くなり、彼らの周りを包み込んでいった。
「これは…湧出だ！」
イシェの言葉が、恐怖に満ちた声で響いた。