ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは慎重に石畳を踏みしめた。ビレーから少し離れた遺跡の入り口付近だ。湿った空気と土の匂いが鼻腔をくすぐる。
「ここだな」
ラーンが、苔むした石壁に手を当てた。背後にはテルヘルが不機嫌な顔で腕を組んでいた。
「本当にここに何かあるのかね?」イシェは疑いの目を向けた。「あの噂はただの作り話じゃないか?」
「大丈夫だ」ラーンは自信満々に笑った。「この遺跡、昔は湧き水で溢れてたんだって。そしたらな、その水には不思議な力があったらしい。病気も治るし、肌も若返るってさ」
イシェは眉間に皺を寄せた。「そんな話、聞いたこともないぞ」。
「まあ、噂レベルの話だ」ラーンは肩をすくめた。「でも、もし本当なら大金になるだろう!」
テルヘルが冷たく切り込んだ。「話を聞くつもりはない。遺物を見つければ、報酬がもらえるだけだ。無駄な時間を過ごしている余裕はない」
イシェはテルヘルの言葉に頷いた。彼女はいつも冷静で、目的を明確にして行動する。ラーンの空想には付き合わされることが多いが、イシェ自身もいつか大きな発見をして、この貧しい生活から抜け出したいと願っている。
「よし、じゃあ入ろう」
ラーンが石壁に手をかけると、意外なほど簡単に崩れ落ちた。その先に広がるのは薄暗い通路だった。
「気をつけろよ」イシェは小さな声で言った。ラーンの背後からテルヘルがそっと剣を抜いた。
湿った空気と土の匂いがさらに濃くなった。通路を進んでいくと、壁に沿って湧き水が流れているのが見えた。澄んだ水の流れは、まるで宝石のように輝いていた。
「あれ?」
イシェは目を丸くした。湧き水の近くには、小さな祠があった。祠の上には、朽ちかけた花瓶が置かれていて、その中から一輪の枯れた花が覗いていた。
「何だこれ?」ラーンが近づいていくと、祠の蓋が開いてしまった。中からは、黄金の輝きを放つ小さな石像が見えた。
「これは...!」イシェは息を呑んだ。