ビレーの朝はひんやりとしていた。ラーンがイシェを起こすと、彼女はいつものように眠そうな目を擦った。
「今日はテルヘルさんが遺跡の場所を決めてくれたんだって。珍しいね」
「ああ、でかい遺跡らしいぞ。宝が眠ってる可能性も高いって」
ラーンの目が輝き出す。イシェは微笑んで彼の様子を見つめた。「でも、テルヘルさんの言うことはいつも慎重に聞いた方がいいのよ。特に今回はヴォルダンに近い場所らしいし」
二人は朝食を済ませ、テルヘルが待つ遺跡へと向かった。彼女はいつものように黒ずくめの装束を着ており、鋭い視線で周囲を警戒していた。
「今日は特別だ。この遺跡にはヴォルダンが秘かに探しているものがあるらしい。我々が先に手に入れれば、彼らに大きな打撃を与えられる」
テルヘルはそう言うと、遺跡の入り口を示した。そこには崩れた石造りの門があり、苔むした階段が続くのみだった。
「注意しろ。この遺跡には罠が仕掛けられているかもしれない」
テルヘルの言葉通り、遺跡内は暗く湿気を含んでおり、足元には崩れそうな石畳が広がっていた。ラーンは剣を構え、イシェは慎重に足取りを確かめながら進んだ。
奥深くまで進むにつれて、壁には不思議な模様が刻まれていた。イシェはそれらを指さしてラーンに言った。
「これ、見たことあるような…」
ラーンの表情が曇る。「ああ…俺たちの故郷の近くにも似たような遺跡があったんだ」
彼は少しの間、目を閉じ、遠い過去を思い出しているようだった。イシェは彼の肩に触れ、静かに励ました。
「大丈夫だよ、ラーン。今はこの遺跡に集中しよう」
二人は互いに支え合いながら、遺跡の中心へと進んでいった。そこで彼らは、巨大な石棺を発見した。棺の上には、ヴォルダンが秘かに求めているとされる古代の遺物が置かれていた。
「やったぞ！」
ラーンは興奮して叫んだが、その時、背後から何者かが彼を襲ってきた。ラーンの剣が空を切り、敵を突き飛ばした。
振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の顔は冷酷に歪んでいた。
「この遺跡の真の目的は遺物ではない。ヴォルダンを欺き、彼の力を弱体化させるためのものだ。お前たちを利用する必要があった」
ラーンは動揺し、イシェは言葉を失った。テルヘルは冷たい目で彼らを睨みつけながら言った。
「お前たちは、私の計画の駒に過ぎない。ヴォルダンを倒すために必要な犠牲だ」
しかし、その瞬間、イシェがテルヘルに近づき、彼女の手首をつかんだ。
「待ってください…！」
イシェは涙を流しながら言った。「ラーンは優しい人です。あなたのために命をかけてもいるはずです。どうか温情を示してください…」