冷たい朝の空気の中、ビレーの街灯がまだ火を灯している時間帯だった。ラーンはイシェを起こすために、彼女の肩を叩いた。
「起きろよ、イシェ。今日はテルヘルが待ってるって言ってんだよ。あの遺跡、また行くんだっけ？」
イシェは眠そうに目をこすりながら、「ああ、そうね…」と呟く。冷たい石畳の上で寝袋から起き上がると、すぐに身体を震わせ始めた。朝の気温は容赦なく低く、まだ日が昇る気配はない。
「今日は特に寒いね…」
「そうだな。でもテルヘルは急いでいるみたいだし、早く遺跡に行って帰ってくるのがいいね」
ラーンは陽気に笑ったが、イシェの眉間にしわを寄せた。「あの遺跡…あの温度だと、何かが起こる気がする」と、彼女は不安そうに呟いた。
テルヘルはいつものように、ビレーの酒場の一室で待っていた。彼女の鋭い視線は、ラーンとイシェを見据えていた。
「今日は特別だ。あの遺跡には、ヴォルダンが探しているものがあるらしいんだ。手に入れれば、我々の立場は大きく変わるだろう」
テルヘルはそう言うと、テーブルに広げた地図を指さした。「この遺跡の奥深くにある部屋…そこには、ヴォルダンが最も恐れているものが眠っているという噂だ」
イシェは地図をじっと見つめていた。冷たい石畳の上で寝起きする日々から抜け出すためには、この危険な仕事を受け入れるしか道はない。
「温度が下がりすぎると、遺跡の奥では何かが起こるかもしれない…」「あの温度だと…」
イシェの不安は、テルヘルの冷酷な表情に飲み込まれていくようだった。三人は遺跡へと向かった。冷たい風を切って進む彼らの背中には、凍りつくような緊張感があった。