ラーンがいつものように大口を開けて笑うと、イシェは眉間にしわを寄せてため息をついた。「また大穴の話か。あの話、もう百回以上聞いたよ」。
「でも、いつか本当に掘り当てられるかもな!そうしたら俺たち、ビレーで一番の大金持ちになれるぜ!」
ラーンの熱意に押され、イシェは小さく頷く。だが、彼女の心は渦巻く不安で満たされていた。
テルヘルからの依頼は高額だった。遺跡の調査と遺物の独占権を条件に、彼らは莫大な報酬を得られるはずだった。しかし、テルヘルの目的は曖昧だ。ヴォルダンへの復讐と言っているが、その真意はわからない。そして、今回の遺跡は他のものとは違う。奇妙な魔力が渦巻く場所だと噂されていたのだ。
「準備はいいか?」テルヘルが冷たく尋ねると、ラーンは剣を構えた。「いつでも行くぜ!」イシェは深呼吸し、懐から小さな鏡を取り出した。反射する彼女の瞳には、不安と決意が渦巻いていた。
遺跡の入り口は暗く、湿った空気が立ち込めていた。石畳の上には奇妙な模様が刻まれていて、まるで何かを封印しているかのように見えた。ラーンは勇ましく進んでいくが、イシェは彼の背後から慎重に足取りを確かめた。
奥深くまで進むにつれ、空気は重くなり、視界はぼやけていった。壁には不気味な模様が描かれ、奇妙な音色が渦巻いて聞こえてくるようになった。イシェは鏡で周囲を照らそうとしたが、光が歪んでしまい、何も見えずにいた。
「何か変だ…」イシェが呟くと、ラーンの顔色も変わった。「テ、テルヘル!」
だが、テルヘルの姿は既にない。代わりに、壁に描かれた模様が渦巻くように輝き始め、空間が歪み始めた。そして、そこに巨大な影が現れたのだ。