「おい、ラーン、待てよ！」イシェが急ぎ足でラーンの後を追い、険しい山道を登り続ける。「あの遺跡の調査報告書には、深い渓流があるって書いてあったぞ。あの辺りは湿気が多くて足場が悪いだろう」
ラーンは振り返らずに言った。「そんなこと知るか、イシェ。いいものが見つかるかもしれないんだ！それに、テルヘルが待ってるんだからな。」
イシェはため息をつきながら、ラーンの背後についていった。ビレーから少し離れた遺跡探査の現場では、テルヘルが地図を広げながら何かを呟いていた。「この渓流は古い文献にも記されている。古代の儀式に使われた場所らしい。もし、遺物が見つかるなら、その価値は計り知れない…」
ラーンの興奮と対照的に、イシェは不安を感じていた。テルヘルの目的は遺跡の調査ではなく、何か別のものがあるように思えたのだ。彼女の鋭い視線は常に何かに向けられており、その背後には深い憎しみが渦巻いているように見えた。
「よし、ここだ！」ラーンが突然叫び、岩の隙間を指差した。そこには、苔むした石畳と崩れかけた壁が見えた。「きっと何か見つかるぞ！」
イシェはラーンの熱意に押されるように、彼と一緒に遺跡の中へと入った。湿った空気と土の匂いが鼻腔をくすぐり、深い静寂が周囲を包んでいた。
「待てよ…」イシェが足を止めた。「何か聞こえないか？」
ラーンは一瞬静かに耳を澄まそうとした。「なんだ、聞こえるぞ？あの渓流の音だ」
だが、イシェは違う音を感じていた。それは、かすかな金属音がする足音だった。そして、その音は彼らに向かって近づいているように聞こえた…。