ビレーの酒場「荒くれ者」の喧騒の中、ラーンは木製の杯を傾けながら、イシェの眉間に刻まれた皺を見つめていた。
「またあの顔か、イシェ。そんなに苦い酒を飲むなよ。どうせ俺たちの未来は甘いものになるだろう」
ラーンの豪快な笑いは、イシェにはいつも通り耳障りだった。だが、今日は特に腹が立つ。「甘いか辛いかなんてわからないわ。あんたのことだよ、ラーン。いつも無計画で…」
「なあに、心配してくれてるのか？イシェ。大丈夫だ。俺の直感が言うんだ、今日こそ何か見つかるって！」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。彼にはいつも驚かされる。特に最近では、テルヘルという謎の女性が加わってから、さらに予測不可能になった。
テルヘルはヴォルダンへの復讐を誓う冷酷な女だ。その目的のためなら手段を選ばず、ラーンとイシェを利用することも厭わない。だが、どこか清らかなものも感じさせる。まるで、泥の中に咲く一輪の花のようだった。
「よし、今日はあの遺跡に行くぞ！」
ラーンの言葉に、イシェは諦めかけた。テルヘルは、その遺跡に眠るという古代の遺物について詳細な情報を持っていた。彼女は、その遺物がヴォルダンを倒す鍵になると信じているようだ。
遺跡の入り口には、朽ち果てた石碑が立っていた。その表面には、奇妙な文字が刻まれていた。イシェは、その文字を見た瞬間、背筋が凍りついた。彼女は古代文明について詳しく調べているが、このような文字を見たことはなかった。
「これは…見たことのない文字だ。ラーン、気をつけよう」
「大丈夫だ、イシェ。俺がいるんだから」
ラーンの言葉に、イシェは少し安心した。だが、彼女の直感は、何か悪いことが起きる予感をしていた。
遺跡内部は暗く、湿気が漂っていた。壁には、奇妙な絵画が描かれていた。それは、まるで生き物のようにうねり、イシェの心を不安で満たした。
彼らは奥深くへ進んだ。そして、ついに巨大な石室にたどり着いた。そこには、金色の光を放つ球体が置かれていた。
「これが…？」
ラーンの言葉は途絶えた。その球体からは、圧倒的なエネルギーを感じ取ることができた。イシェは、そのエネルギーが、何か邪悪なものと繋がっているように感じた。
突然、石室の壁から影が現れた。それは、黒く禍々しい姿で、鋭い牙と爪を持っていた。
「これは…！」
ラーンは剣を抜いた。だが、その影は、ラーンの攻撃を軽々とかわした。
イシェは、テルヘルに助けを求めた。しかし、テルヘルはただ冷ややかに笑みを浮かべていた。
「面白いわね。この遺跡には、予想外の収穫があるのね」
イシェは絶望した。ラーンが影に襲いかかるが、その影はラーンの攻撃を避け、ラーンの体を貫いた。
ラーンは苦しみながら倒れた。イシェは叫んだ。しかし、誰も助けてくれない。テルヘルは、影の力を利用しようとしていた。
「清らかな心を持つ者よ…」
イシェは、影の声を聞いた。それは、まるで囁きのように、彼女の心を蝕もうとしてきた。
イシェは、自分の心が揺れ動いていることに気がついた。清らかで純粋な心を持ちながらも、憎悪や欲望に囚われた己の姿を目の当たりにした。