ラーンの大柄な体躯が遺跡の入り口をくぐり抜けると、イシェが小さくため息をついた。埃っぽい薄暗い空気が彼らを包み込み、僅かな光が石畳を照らすだけで、その奥には深い闇が広がっているようだった。
「またこんな薄暗い所か…」とイシェが呟くと、ラーンはいつものように豪快に笑った。「そんなこと言わずに、大穴が見つかるかもよ!ほら、テルヘルさん、何か感じる?」
テルヘルは石畳の上を慎重に歩きながら、鋭い視線で周囲を観察していた。彼女の薄暗い瞳には、かつてヴォルダンに奪われたものへの執念と、この遺跡から何かを得るという強い決意が宿っていた。
「ここは以前にも来たことがあったはずだ…」と彼女は呟き、指先を石畳の上を滑らせながら言った。「何か…奇妙なエネルギーを感じる。」
イシェはテルヘルの言葉に少し戦慄した。彼女はいつも冷静沈着だが、稀にこのような感覚的な発言をすることがあるのだ。そしてそれはいつも何かの予兆だった。ラーンはいつものように無邪気に笑っていたが、彼の表情にも一瞬の硬さが走った。
「深淵…。」テルヘルは小さく呟いた。「ここには何か…深い闇が眠っている。」
彼女がそう言うと、地面がわずかに震え、埃が舞い上がった。そして、石畳の一部分にヒビが入り、そこから黒い煙のようなものが立ち上り始めた。ラーンとイシェは息を呑んで見守る中、その煙は急速に広がり、やがて彼らの視界を遮るほどの大渦巻きへと変貌した。
「これは…!」
イシェの声が途切れた。煙の中から不気味な光が差し込み、深い闇の淵から何かが姿を現し始めたのだ。