ラーンの鼻腔をくすぐるような土の匂い。イシェがいつも通り眉間に皺を寄せながら地図を広げていた。テルヘルは背中に手を当て、視線を遺跡の入り口に向けた。
「ここだな」
テルヘルの声が響き渡ると、ラーンは深呼吸をして意気込んだ。いつものように無計画な行動に出る前に、今回は少しだけ慎重になろうと決めていたからだ。イシェの冷静な判断を頼りに、危険を察知した時には躊躇なく後退する。そう自分に言い聞かせながら、遺跡へと足を踏み入れた。
石畳が崩れ落ちた通路は薄暗く、湿った空気の中を不気味な音がこだました。ラーンの足取りは軽いが、イシェは慎重に一歩ずつ進んでいく。テルヘルは先頭を歩く彼女の後ろを少し離れた位置を歩き、鋭い視線で周囲を警戒していた。
「何かいるぞ」
イシェがささやいた。ラーンは剣を握り締め、緊張した呼吸を繰り返した。その時、壁から突然巨大な影が飛び出した。ラーンは反射的に剣を振り上げたが、それはただの蝙蝠だった。
イシェが深呼吸をして落ち着きを取り戻し、「ただの蝙蝠だ」と冷静に言った。
しかし、その言葉とは裏腹に、ラーンの心臓は激しく鼓動していた。遺跡の奥深くでは、彼らを待ち受ける未知なる危険が潜んでいることを、本能的に感じ取っていた。
「よし、行こう」
テルヘルが声を上げると、3人は再び遺跡の奥へと進んだ。彼らの背後には、崩れ落ちた石畳に影が長く伸びていた。