ビレーの薄暗い酒場に、ラーンとイシェの姿があった。いつも通り、ラーンの豪快な笑い声が、イシェのため息と混ざり合っている。
「おい、イシェ! またそんな顔をするなよ。今日はいい日だぞ! きっと大穴が見つかる!」
ラーンの言葉に、イシェは小さく苦笑した。彼らにとって、この酒場は単なる飲み屋ではなく、情報収集の場でもある。今日出会った旅人から、近くの遺跡で奇妙な光が確認されたという噂を聞いたのだ。
「あの光は、ただの鉱石だろう。そんな期待する必要はない」
イシェはそう言ったが、ラーンの目は輝いていた。「でももし、古代文明の遺物だったら? イシェ、今回はきっと大金持ちになれるぞ!」
イシェは彼の熱意に少しだけ心を動かされた。しかし、彼女は冷静に状況を判断した。最近、ヴォルダンとの国境紛争が激化し、エンノル連合は緊張状態に陥っている。遺跡探索は危険なだけでなく、政治的にも不安定な状況だ。
「ラーン、今の状況では、遺跡探検よりも安全な仕事をするべきじゃないのか?」
イシェの言葉に、ラーンの笑顔は少し曇った。彼は自分の無計画さを自覚していたが、夢を諦めることはできなかった。「でも、イシェ…俺たちはまだ若いのだ。夢を追いかけるのは悪いことじゃないはずだ」
その時、酒場のドアが開き、テルヘルが入ってきた。彼女の鋭い視線は、ラーンとイシェに固定された。
「二人とも、準備はいいか?」
テルヘルの声は冷たかった。彼女はヴォルダンへの復讐心から、遺跡探索を急いでいた。ラーンの無計画さ、イシェの慎重さは、彼女にとっては邪魔な存在だった。しかし、二人の能力は必要不可欠だ。彼女は彼らの力を利用し、自らの目的を果たすつもりだった。
「よし、行こう。あの光が何なのか確認してくる」
ラーンは立ち上がり、剣を腰につけた。イシェは彼を見つめ、少しだけためらいがあった。しかし、彼の決意は揺るぎないものだった。彼女は小さく頷き、テルヘルと共に酒場を後にした。
ビレーの街灯が、三人を闇に溶かしていくように消えていった。彼らの前に広がるのは、未知なる遺跡と、淀みない運命だった。