ラーンの大斧が遺跡の石壁に深く食い込んだ。埃が舞う中、彼は息を切らし、額から汗がしたたり落ちるのを気にしなかった。
「よし、開いたぞ！」
イシェは小さくため息をつきながら、彼の後ろから続く。「また無駄な力の使い方ね。あの斧を磨く金もあれば、 rations に回せるのに…」
ラーンの笑いは苦いものだった。「お前が言いたいのはわかるよ。でも、この興奮は金では買えないんだ！」
イシェは言葉を失った。彼女はラーンの無鉄砲さにいつも呆れていたが、彼の熱意にはどこか惹かれてしまう自分がいることも知っていた。
遺跡内部の暗闇を切り裂く炎の光が、壁に刻まれた古代文字を照らし出す。テルヘルが、その文字を指差した。「ここだ。目標はここから下にあるはずだ。」
彼女は地図を広げ、複雑な道筋を指さす。「この通路は崩落寸前だ。慎重に進まないと…」
ラーンの表情が曇った。「またかよ…。いつもお前には面倒くさい仕事ばかり押し付けられるんだ」
テルヘルは冷たく言った。「私は結果を求めているだけだ。危険を冒せば、それだけ大きな報酬を得られる。それが我々の契約だ。」
イシェは二人のやり取りに疲れを感じた。彼女は、この遺跡探索の目的が、単なる金儲けではないことを感じていた。テルヘルの復讐心、そしてラーンの「大穴」への執着。二人が無意識に追い求めている何か…それは、彼女自身も深く関わっているはずなのだが、その正体は未だ見えず、ただ漠然とした不安だけが彼女の心を蝕んでいた。
彼らは崩れそうな通路を慎重に進んだ。足音だけが響き渡る静寂の中で、イシェは自分の存在意義について考え込んだ。消耗していく体力と精神、そして、この先にあるであろう更なる犠牲…果たして、その代償に見合うものがあるのか？彼女は答えのない問いに苦しめられた。