ビレーの朝焼けが、ラーンの寝癖を直すように照らしていた。イシェはすでに準備を終えていた。「今日はあの洞窟へ行くんだろ？」彼女の問いかけにラーンはうなずく。「ああ、テルヘルが言ってたな。何か珍しい遺物があるらしいぞ」。
「珍しい遺物」という言葉にラーンの目は輝いた。彼はいつも大穴を夢見ていた。イシェはそんな彼の熱意を少し羨ましく思うこともあった。だが、現実主義者である彼女は、遺跡探索がもたらす危険と引き換えに得られる報酬が、本当に彼の大穴への夢に繋がるのか疑問を抱いていた。
テルヘルは今日も冷静な表情で指示を出していた。「あの部屋にはトラップがある可能性が高い。慎重に進めよ」。彼女はかつてヴォルダンに奪われたものを取り戻すため、遺跡探索に執念を燃やしている。ラーンとイシェの力を借りることで、彼女は目的達成に近づきたいと考えていた。
洞窟内部は暗く湿っていた。石畳の上には苔が生え、足元を滑りやすくしていた。イシェは慎重に足を踏み入れ、ラーンが先導するように進む。テルヘルは後ろから二人を見つめるようについていった。
すると、突然床が崩れ始めた。「うわっ！」ラーンの叫びが洞窟内に響き渡る。彼は落下する寸前でイシェに掴まったものの、バランスを崩し、洞窟の奥へと落ちてしまった。
「ラーン！」イシェは叫びながら駆け寄ったが、彼の姿はすでに闇の中に消えていた。「大丈夫か？」テルヘルも声を張り上げた。だが返事はなかった。
二人は息を呑んで、ラーンの姿を捜した。すると、洞窟の奥からかすかな光が見えてきた。イシェはすぐに気づき、テルヘルに告げた。「あそこだ！」
光に向かって進むと、そこは広大な部屋だった。天井には水晶が埋め込まれており、部屋全体を幻想的な輝きで満たしていた。その中心には、巨大な石棺が置かれていた。
「これは…」イシェは息をのんだ。ラーンの姿は見当たらない。石棺の周りには、まるで消化されたかのように、何も残っていない奇妙な跡があった。