ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声を上げた。「またしても空振りか!イシェ、お前も見てたろ?あの遺跡にはなにもないんだ!」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの腕を軽く引っ張った。「ラーン、もういい加減にして。今日はテルヘルの依頼で来たはずだろ?あいつの機嫌が悪くなったら大変だぞ」
ラーンはふざけながらもイシェの言葉に少しだけ気を悪くした。「分かってるよ、分かってる。でもさ、あの遺跡、なんか変だなって思わないか?」
イシェは首を傾げた。「変?どこが?」
「あの壁画、よく見るとヴォルダンの紋章に似てないか?もしかしたらヴォルダンが何か隠してるんじゃないのか?」
イシェはラーンの言葉に少し興味を示した。「そうかもしれないね。でも、なぜヴォルダンがこんな辺境の遺跡にものを隠す必要があるのか…」
その時、テルヘルがテーブルに近づいてきた。「二人は何をしているのですか?仕事の話ではないですね」
ラーンは慌てて立ち上がった。「あ、テルヘルさん!いいえ、仕事の話ですよ!あの遺跡について少し考えていたんです」
テルヘルは鋭い目で二人を見つめた。「ヴォルダンについてですか?なぜそんなことを考えるのですか?」
イシェが緊張した様子で答えた。「いや、特に何も…」
テルヘルはゆっくりと口を開いた。「ヴォルダンのことは忘れてください。それは私たちにとって関係のないことです」
ラーンの心には、どこか引っかかるものがあった。ヴォルダンの紋章、そしてテルヘルの警告。二つのものがまるで何かを隠しているように思えた。まるで、ビレーの街全体が、ヴォルダンに浸透する影の中にいるような気がしたのだ。