ビレーの朝は、石畳の上を歩くラーンの重たい足音で始まった。イシェがいつものように「また寝坊したのか」と呆れた声で言った時、ラーンは空を見上げ、太陽に手を伸ばすような仕草をした。「今日はきっと大穴が見つかる気がするんだ!」
イシェはため息をつきながら、ラーンの背後に続く。ビレーの街から少し離れた遺跡へ向かう道には、まだ朝露が輝いていた。しかし、その輝きは、ラーンの脳裏に浮かぶ金貨の山々を霞ませるほどにはなかった。
「テルヘルはまだ来ないな」イシェは言った。「またあの女、寝過ごしたんじゃないか?」
「心配するな、イシェ」ラーンは笑いながら答えた。「テルヘルは約束を守ったことなんて一度もないだろうけど、今回は違う。だって今日は特別な日だ。俺たちに大穴が見つかる日だから!」
イシェは、ラーンの言葉にわずかな希望を感じながらも、どこか冷静さを失っていることに気づいた。ラーンの瞳は、まるで遺跡の奥底に眠る宝物を見据えるように輝いていた。その熱狂的な光は、イシェにはどこか不気味にも思えた。
遺跡への道は、石畳から荒れた岩肌へと変わるにつれて、より険しくなっていった。太陽が登り詰めていくにつれて、日差しも強くなり、地面から立ち上る熱気が二人を包み込んだ。
「待てよ」イシェは足を止めた。「何か変だぞ…」
ラーンは振り返らずに、「何だって?」と答えた。だが、イシェの言葉が彼に届いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。かすかに感じる、湿った土の匂い。まるで、水底から上ってくるような、重たい空気が彼らを包み込んでいく。
「ラーン…」イシェは声を張り上げた。「何か、おかしいぞ…」
その時、地面が揺れ始めた。小さな振動が、徐々に大きくなり、やがて激しい轟音へと変わっていった。ラーンの足元から、黒い液体が湧き上がってきた。それはまるで、大地の奥底から這い上がるような闇だった。