ラーンが石ころを蹴飛ばすと、イシェに鋭い視線を向けられた。
「何だ、イシェ。そんな顔すんな。」
「あの遺跡の調査報告、まだ終わってないだろ?テルヘルも待ってるんだから、早くやりなよ。」
イシェは眉間にしわを寄せながら言った。「この遺跡、なんか変だと思わないか?」
ラーンは深く溜息をつき、「お前いつもそう言うよ。遺跡なんてどれも同じだって。」と呟いた。だが、イシェの言葉は彼の心に引っかかっていた。確かに、今回の遺跡は他のものとは雰囲気が違った。いつものように冒険心をくすぐるようなワクワク感ではなく、どこか不気味な静けさを感じさせるのだ。
「まあ、いいだろう。今日はテルヘルの依頼を優先だ。」ラーンはそう言って立ち上がった。
日が暮れ始めると、ビレーの街には潮風が吹き始めた。遠くからかすかに海鳴りが聞こえてくる。イシェはいつもより早く眠りについた。夢の中で、彼女は荒れ狂う波に飲み込まれる自分をみかけた。目覚めた時、心の中で何かが崩れ落ちたような気がした。
「イシェ、起きて!」ラーンの声で目を覚ますと、彼は焦った表情をしていた。「テルヘルが来たぞ!急いで準備だ!」
テルヘルはいつもより険しい表情を浮かべていた。「遺跡に変化があった。ヴォルダンが関わっている可能性が高い」彼女は鋭い視線でラーンとイシェを見据えた。「今回は命懸けの仕事になる覚悟が必要だ。」
三人は再び遺跡へと向かった。一歩足を踏み入れた瞬間、ラーンの背筋がぞっとした。いつものように石や土が崩れ落ちているわけではなく、まるで何かが生きたように脈打つような感覚を覚えたのだ。イシェはラーンの手をぎゅっと握った。彼女の視線は遺跡の奥深くに沈んでいく。そこには、影が蠢くように広がる闇があった。
「海鳴り…」イシェが呟いた。その声はまるで警告のようだった。