日差しが容赦なく照りつける灼熱の砂漠を、ラーンとイシェは重い足取りで進んでいた。背後からはテルヘルが、静かにしかし確実に距離を詰めてくる。遺跡への道は険しく、疲れ果てた二人をさらに苦しめるように、喉を締め付けるような熱気が渦巻いていた。
「もう限界だ…」
イシェが呟くと、ラーンの顔色が一変した。「まだだ！あきらめるな、イシェ！」彼の声は力強かったが、息づかいは荒く、虚勢に満ちていた。
彼らは三日前から連続で遺跡探索を行っている。テルヘルからの依頼は高額だったが、その代償として彼女は厳しい条件を課していた。それは「浄化」と呼ばれる儀式を行うことだった。遺跡の奥深くにある特殊な装置を起動させ、周囲の空間を浄化するのだという。
しかし、その儀式には危険が伴うとテルヘルは警告した。なぜなら、浄化によって古代の呪いのようなものが解き放たれる可能性もあるからだと言ったのだ。
「あの…テルヘルさん」イシェが声を震わせて言った。「浄化って…本当に安全なんでしょうか？」
テルヘルは一瞬だけ視線を彼に向け、鋭い眼光で睨みつけた。その後すぐに視線を遺跡の奥へと向け直した。「心配するな。私は対策を講じている」とだけ答えた。しかし、彼女の言葉には確信が感じられず、イシェの不安は増すばかりだった。
日が暮れ始めると、ついに遺跡の入り口に到着した。巨大な石門が、まるで古代の巨人の怒りを象徴するかのように、そびえ立っていた。ラーンは深呼吸をして、意を決したように石門を押し開けた。
内部は薄暗く、不気味な静けさに包まれていた。わずかに差し込む光は、壁に描かれた奇妙な記号を浮かび上がらせ、不吉な雰囲気を漂わせた。イシェは背筋がぞっとするような感覚に襲われ、ラーンの腕にぎゅっとつかまった。
「大丈夫だ、イシェ」ラーンは力強く言った。「俺たちが一緒なら何があっても大丈夫だ」彼の言葉に少し安心したイシェだったが、心の中でまだ不安を拭いきれなかった。
彼らは遺跡の奥へと進んでいくにつれて、奇妙な現象に遭遇するようになった。壁から不気味な音が聞こえたり、床が突然崩れたり、視界が歪んだり…。まるで遺跡自体が、彼らを拒絶しているかのように。
そしてついに、彼らは儀式を行うための部屋に到着した。中央には、複雑な模様が刻まれた巨大な装置が鎮座していた。その周りには、古代の文字で書かれた石碑が何枚も並んでいる。テルヘルは石碑を指さし、ラーンに指示を出す。「この装置を起動させるのだ。そして、そのエネルギーによって空間を浄化しろ」
ラーンの表情は険しくなった。「何か…変だ…」彼は呟いた。装置から放たれる奇妙なエネルギーを感じ取り、彼の本能が危険を察知したのだ。
イシェもまた、同じように不安を感じていた。しかし、彼女はラーンに「やめるべきだ」と言う勇気はなかった。なぜなら、テルヘルの冷酷な視線と、彼女の背後に潜む何か恐ろしいものを感じ取っていたからだ。