ラーンが剣を抜き放つ音が、埃っぽい遺跡の奥深くまで響き渡った。巨大な石扉の前に立つイシェは眉間に皺を寄せながら、ラーンの後ろから「待て!あの扉には触るなと言っただろう!」と叫んだ。しかしラーンの耳には届かなかった。彼の目は、扉の隙間から覗く不気味な光に釘付けになっていた。
「宝だ!きっと大穴だ!」
彼は扉を力任せに押し開けた。石塵が舞い上がり、二人の視界を遮った。 coughing 咳き込みながらイシェは視界を戻すと、ラーンの顔が青ざめているのに気がついた。「ラーン、どうした?何かあったのか?」
ラーンは言葉にならない声を上げ、ゆっくりと後ずさった。イシェの視線は扉の奥へと向けられた。そこには広がるはずの部屋はなく、漆黒の空間が広がっていた。まるで深い淵を見つめるようだった。そしてその淵から、ゆっくりと白い霧が立ち上ってきた。それはまるで、海に浮かぶ流氷のように、ゆっくりと、不気味に動き始めた。
「な…何だあれは…」イシェの声が震えた。ラーンは言葉を失い、ただ白い霧をじっと見つめていた。その時、テルヘルが彼らの後ろから近づいてきた。「あの扉を開けたのはお前か?愚か者!あの扉は触ってはいけないものだ!」
彼女は冷静な声で言ったが、彼女の瞳にも不安の色が浮かんでいた。イシェはテルヘルの言葉に驚きながら尋ねた。「なぜ?あの扉には何が…」
テルヘルは深呼吸をしてから、ゆっくりと答えた。「あの扉は、ヴォルダンが封印した場所につながっている。そこには、かつての文明の遺産…そして、恐るべき力を持つ存在が眠っている。」
ラーンの表情は硬く、イシェは恐怖で震えていた。白い霧はゆっくりと広がり続け、彼らの足元まで達していた。それはまるで、この遺跡を飲み込み、全てを白く染め尽くすかのように、静かに迫っていた。