ラーンが巨大な石の扉を押し開けた瞬間、埃っぽい風が吹き荒れ、彼らを包んだ。イシェは咳き込みながら「また、ここか…」と呟いた。ビレーから少し離れた遺跡群では、いつも同じような光景に遭遇する。
「よし、今回は必ず大穴が見つかるぞ!」
ラーンの豪快な声と対照的に、イシェの視線は扉の向こう側にある薄暗い通路に注がれていた。いつも通りの光景だが、何かが違う気がする。まるで、この遺跡が彼らを待っていたかのような感覚。
「ほら、テルヘルさん、こっちだ!」
ラーンは意気揚々と奥へと進んでいく。テルヘルは冷静な表情で彼を目で追う。彼女の目的は遺跡の遺物ではなく、ヴォルダンに関する何かしらの手がかり。この遺跡群が、その手がかりにつながるという確信があった。
イシェは二人が進む方向とは反対の方向を見つめた。そこには崩れかけた壁に、何かの影がかすかに映っているようだった。まるで、風でゆらめく泡沫のように儚い。
「ちょっと待ってください」
イシェの声を振り向きながらラーンが振り返ると、イシェは壁へと歩み寄っていく。テルヘルも興味津々に後を追う。
崩れた壁の隙間から覗き込むと、そこには小さな部屋があった。部屋の中央には、祭壇のような石台があり、その上には美しい水晶の球体が置かれていた。水晶球からは淡い光が放たれており、まるで生きているかのように脈打ち、部屋全体を幻想的な輝きに包んでいた。
「なんて…」
ラーンは目を丸くする。イシェも息をのむように見つめる。その美しさは、今まで見聞きした遺跡の遺物とは全く異なるものだった。まるで、この世界に存在するはずのない、儚い夢のようなもの。
テルヘルは水晶球をじっと見つめていたが、彼女の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。この水晶球がヴォルダンに関する手がかりになる可能性もある。しかし、同時に、何か大切なものを失うような予感も覚える。まるで、泡沫のように儚く消えてしまうような未来を垣間見たような気がした。
「さあ、行くぞ」
ラーンは水晶球を背に、遺跡の奥へと進んでいく。イシェとテルヘルも彼の後を追う。しかし、イシェの心には不安な影が落とされていた。水晶球の美しさは、彼らを魅了するだけでなく、同時に虚無感をもたらしていた。まるで、この世界が泡沫のように儚い存在であることを思い出させるかのようだった。