ラーンが石ころを蹴り飛ばすと、イシェから「また遺跡のことか」と呆れられた。ビレーの市場では、いつも通りの活気だった。だが、ラーンの心はどこか落ち着かなかった。昨日の遺跡探索で手に入れた遺物は、思ったほど高値で売れなかったのだ。「大穴」を見つける夢が、まるで遠く離れた空の星のように思えてきた。
「なあ、イシェ。俺、今日は気分が悪いんだ。」ラーンがそう言うと、イシェは眉間に皺を寄せた。「またそんなこと言うなよ。テルヘルに言ったら、また説教されるぞ」と、イシェは諦めたように言った。だが、ラーンの心には冷たいものが沁み出していた。
テルヘルとの契約は、彼らにとって大きなチャンスだったはずだ。ヴォルダンへの復讐のために集める資金が必要だという彼女の言葉を信じていた。しかし、遺跡の探索は危険が伴い、その度にイシェの不安な顔が見えた。そして、ラーンの心にも「大穴」よりも大切なものがあることに気づき始めていたのだ。
「おい、ラーン！何考えてんだ？」イシェの鋭い声で、ラーンの考えは断ち切られた。「行くぞ、今日の遺跡は俺たちが先に探すんだ！」そう言いながら、イシェは歩き始めた。ラーンの視線は、ビレーの市場から離れ、遠くの山の峰に注がれた。そこに、彼の未来があるのかもしれない。でも、今はまだ、確信を持てないのだ。
「よし、行こう！」ラーンはイシェの後を追いながら、小さく頷いた。彼の胸には、冷たいものが沁み出すのを感じた。それは、希望よりも、不安と後悔だった。