ラーンの豪快な笑い声が遺跡の奥深くまでこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の背後から続く足音を聞いてため息をついた。いつも通りのやり方だ。計画性もなく、危険を冒しすぎだ。
「ラーン、待て!」
イシェの声は風と石の擦れ合う音に呑み込まれてしまった。彼女は慌ててラーンを追いかけた。彼の前に広がるのは崩れた壁と、その隙間から覗く漆黒の空間だった。
「これは…?」
ラーンの顔色が変わった。興奮した様子ではなく、どこか不吉な予感を漂わせていた。イシェもその空気に触れ、背筋を寒気がするような感覚に襲われた。
「何か感じる…」
ラーンは呟きながら、剣の柄を握りしめた。イシェは彼の手が震えていることに気づいた。いつも無鉄砲な彼の姿とは違った、どこか不安げな表情だった。
その時、遺跡の奥底から不気味な音が響き渡った。まるで獣の咆哮とでも言えるような、低く唸る音だ。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。恐怖と決意が入り混じった視線で。
「これは…やばい」
ラーンの声が震えていた。彼は迷わず剣を抜き、イシェに言った。
「逃げろ!」
イシェは一瞬ためらった。逃げ出すべきなのか、それともラーンと共に戦うべきなのか。その決断を迫られる時、彼女の心には二人の幼い頃の記憶が蘇ってきた。共に冒険を語り、夢を語り合ったあの日々。
「いいえ…一緒に」
イシェは剣を抜き、ラーンの後ろに立った。彼らの前に広がる漆黒の空間から、不気味な音がさらに大きくなっていた。