「よし、今回はあの洞窟だ」ラーンが地図を広げ、指さした先はビレーから北へ続く山脈の奥深くにある未踏の遺跡を示していた。「噂によると、古代文明の王が眠っているらしいぞ。宝の山だ！」
イシェは眉をひそめた。「またそんな話か？ ラーン、あの洞窟は危険だって聞いたことがある。地元の人間ですら近づかない」
「大丈夫、大丈夫！ 俺たちにはイシェがいるじゃないか。慎重にやればなんとかなるさ」ラーンは豪快に笑ったが、イシェは彼の言葉の端々に漂う安易さに苛立ちを感じた。
テルヘルは静かに地図を眺めていた。「洞窟の入り口付近には汚れた沼地が広がっているという話だ。注意が必要だ」
彼女の冷静な声にラーンも少しだけ顔色が変わった。沼地といえば、かつてヴォルダン軍がビレー周辺を侵攻した際に多くの犠牲者を出した場所だった。あの時、テルヘルはヴォルダンの兵士たちによって全てを失い、汚泥まみれの戦場から生き延びたのだ。
「よし、準備はいいか？」ラーンが剣を手に取った。イシェは Sighし、自分の道具を確認した。テルヘルは鋭い視線で三人の様子を見渡しながら、ゆっくりと立ち上がった。
洞窟への道は険しく、深い霧に覆われていた。足元には滑りやすい岩肌が広がり、不気味な静けさが漂っていた。イシェはラーンの背後を歩きながら、常に周囲に目を配っていた。
やがて沼地に差し掛かった時、悪臭が鼻腔をくすぐった。腐敗した植物の匂いと、何とも言えない湿った臭いが混じり合い、空気を重くしていた。
「ここは気をつけろ」テルヘルは低く唸った。ラーンの足取りが少し不安定になったのをイシェは確認した。沼地を渡るには細長い橋がかけられており、その板は腐りかけていて何箇所も欠けていた。汚泥の臭いが立ち込める中、ラーンは慎重に一歩ずつ足を前に進めた。
その時、突然、橋の真ん中から崩落が始まった。ラーンの足元が空中に宙吊りになり、彼は絶叫しながらバランスを崩した。
「ラーン！」イシェは叫び声を上げながら駆け寄ったが、すでに遅かった。ラーンは沼地に飲み込まれ、汚泥にまみれた姿で沈んでいった。