ラーンの斧が石壁に深く食い込んだ。埃が舞い上がり、一瞬の静寂の後、崩れ落ちる石の雨音だけが響き渡った。
「よし、これで通れるな！」
ラーンは息を切らしながら言ったが、イシェは眉間に皺を寄せた。「少し待ちなさい。あの奥にはまだ何も見えないじゃないか」
テルヘルが薄暗い通路を照らすランプの光を調整しながら、「時間がない。深部に行くほど危険になることを忘れるな」と冷静に言った。
ラーンの汗腺から滲み出る汗が目に入り、彼は視界をこすりながら「分かってるよ、分かってる」と呟いた。だが、彼の顔には興奮の色が浮かんでいた。
遺跡内部は湿気が高く、重く冷たい空気が流れ込んでいた。イシェは薄暗い通路を進みながら、足元にある石畳に気を配った。滑りやすい苔が生え、一歩間違えば転倒する危険があった。
「ここは以前にも来たことがあるはずだ…」イシェが呟くと、ラーンは振り返り、「そうか？俺には覚えていないな」と答えた。
彼はいつも通り、遺跡探索を冒険のように捉えていた。だが、イシェにとっては単なる日暮らしの延長線上にある危険な仕事だった。
テルヘルが先頭を歩きながら、壁に刻まれた古代文字を指さした。「ここにはヴォルダンの軍勢がかつて進軍してきた記録がある」と彼女は言った。
イシェは彼女の言葉に背筋が凍るような感覚を抱いた。ヴォルダンとの戦いは、彼女にとってトラウマであり、決して忘れられるものではない。
「あの日、全てを奪い去った…」テルヘルは呟きながら、握りしめた拳を少し緩めた。
その時、通路の奥から不気味な音が聞こえてきた。石が転がるような音と、かすかな獣の咆哮のようなものだった。
ラーンの汗腺から滴り落ちる汗が、まるで恐怖を表すかのように地面に落ちた。イシェは背後を振り返りながら、「何の音だ？」と尋ねた。