ラーンの大雑把な剣振りが埃を巻き上げ、イシェが眉間に皺を寄せた。
「本当にここなのか？」
イシェの視線は薄暗い遺跡の奥深くを指していた。ラーンは自信たっぷりに頷き、巨大な石板を足で蹴飛ばした。
「ああ、ここだ。この記号、見たことあるだろう？テルヘルが言ってたやつだ。」
確かに石板には奇妙な刻印が刻まれていた。イシェは懐から羊皮紙を取り出し、慎重に記号と照らし合わせた。
「うん、間違いないようだ。ただ…」
イシェの視線が石板の陰になった空間へと向けられた。そこからは不気味に冷たい気配が漂い、ラーンの背筋を凍らせた。
「何か感じる？」
ラーンの問いにイシェは小さく頷き、剣を握りしめた。
「何かがいる気がする…」
二人の視線が交わった瞬間、石板の奥から鈍い音がした。まるで何か巨大なものが動き出したような音だった。
ラーンが剣を抜こうとしたその瞬間、背後から冷たい風が吹き抜けた。イシェは咄嗟に振り返り、影のようなものを感じた。
「ラーン、後ろ！」
イシェの声はかすれていた。ラーンの視界には、薄暗い遺跡の奥深くからゆっくりと何かが姿を現し始めた。それは人型の姿だったが、その体は影のようにぼやけており、目も鼻もはっきりとは分からなかった。
「何だあの…」
ラーンは言葉を失い、ただ剣を握り締めたまま立ち尽くした。影のようなものはゆっくりと近づいてくるにつれ、周囲の気配がさらに冷たくなっていった。まるでこの遺跡そのものが息を呑むかのように静まり返った。
イシェはラーンの肩に手を置き、低い声で言った。
「気をつけなさい…何か悪いものを感じる。」