ラーンの鼻息が荒くなってきた。「おい、イシェ、この奥行けそうだぞ!」
イシェはラーンの背後から彼の手を引っ張った。「待てよ、ラーン。あの石畳の模様、よく見ろ。」
ラーンの視線はイシェの指さす方向へ移った。確かに、石畳は規則正しく並んでいるように見えたが、一部に奇妙な歪みがあることに気づいた。
「なんだこれは…」ラーンの眉間に皺が寄った。「罠か何かか?」
「そうかもね。慎重に進もう。」イシェは小さな光を灯したランタンを手に取り、一歩ずつ石畳の上を進んでいった。
突然、床から風が吹き上がり、ラーンとイシェはバランスを崩しそうになった。ラーンの足元から砂塵が巻き上がり、視界を遮った。
「くっ…!」ラーンは剣を構え、周囲に目を凝らした。
しかし、何も見えなかった。砂埃がゆっくりと静まり返り、視界が開けていくにつれ、彼らの前に広がる光景にラーンは言葉を失った。そこは、かつて栄華を極めた都市の遺跡だった。巨大な石柱が天に向かって聳え立ち、崩れかけた壁には精巧な彫刻が残されていた。
「美しくて…」「イシェも息をのんだように呟いた。
しかし、ラーンの心は落ち着かなかった。「あの風は一体…?」
その時、背後から冷たい声が響いた。「ようこそ、迷い人よ。」
ラーンとイシェは振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。黒く長い髪を後ろでまとめ、鋭い眼光で二人を見下ろす。彼女の横には、剣が刺さった石棺が置かれていた。
「あなたは誰だ?」ラーンの声が震えた。
女性は微笑みながら答えた。「私はこの遺跡の守り人。お前たちは、私の望む者にこの場所を案内するための駒に過ぎぬ。」
ラーンとイシェは互いに視線を交わした。彼らの前に広がる遺跡の美しさ、そしてその背後に潜む謎。彼らは気まぐれな運命の糸に巻き込まれるように、新たな冒険へと足を踏み入れることになる。