ビレーの酒場はいつもよりも騒がしかった。次期執政官選挙を巡る議論が白熱していたのだ。ラーンはイシェに絡まれながら、テーブルの上で硬くなったパンを噛み砕いた。「おいおい、イシェ。そんな顔してると、まるで俺たちが選挙に出るかのようだぞ」。イシェは眉間に皺を寄せたまま言った。「そうでもない? 今回の選挙結果は、ビレーにも大きな影響があるだろう。自治権の範囲が変わるかもしれないし、遺跡探索への規制も強化されるかもしれない」。ラーンは「そんなことより、今日の仕事はどうだ?」と切り替えようとしたが、イシェは耳を傾けなかった。彼女は窓の外を見つめ、遠くヴォルダンとの国境線に目をやった。「あの辺りから、また難民が増えてきたらしいよ」
その夜、いつものように遺跡の入り口前でテルヘルと合流した。彼女はいつもより顔色が悪かった。「ヴォルダンの動きが活発になってるようだ。情報収集が難航している」。ラーンは「そんなこと言わずに、今日も遺物探しの話をしようぜ!」と明るく言ったが、イシェはテルヘルの表情をじっと見つめていた。
遺跡の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンは慣れた手つきで剣を抜いて周囲を確認した。イシェは背後から彼を牽制するよう、小さな音を立てて石を落とした。「何かいるぞ」。テルヘルが低い声で言った。彼らは互いに視線を交わし、静かに前進した。
遺跡の奥深くで、彼らは巨大な扉を発見した。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように脈打っているように見えた。「これは…」。イシェは言葉を失った。テルヘルは「これは民間伝承に載ってた…」と呟いた。「古代文明の遺物、そしてヴォルダンが欲しがるものだ」。ラーンの表情が硬くなった。「よし、開けろ!」
扉が開く瞬間、激しい光が彼らを包んだ。