「よし、今回はあの崩れかけた塔の奥深くだ」ラーンが目を輝かせると、イシェは眉間に皺を寄せた。「また、そんな危険な場所？あの塔は以前から怪しい噂があるぞ。何者かが中に入ったら二度と出てこなかったって話も…」
「そんな話は迷信だ！それに、テルヘルさんが高い報酬を払ってるんだろ？大穴が見つかる可能性もあるぞ」ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。「そうだな…でも、今回は特に警戒が必要だ。何か変だと感じた時はすぐに引き返そう」
テルヘルは、いつものように冷静な表情で地図を広げていた。「塔の奥深くに、古代の毒物に関する記録が残されている可能性が高い。それが今回の探索の目的だ」
ビレーの遺跡探査では珍しい毒物関連の依頼だった。通常は宝石や武器などの遺物を求めるが、今回はテルヘルの強い希望で毒物に関する資料を探すことになったのだ。
塔の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。崩れた石畳を慎重に進む三人は、時折耳をつんざくような鳥の鳴き声を聞いた。ラーンは先頭を歩き、イシェが後をついていく。テルヘルは二人から少し離れて、周囲を警戒しながら歩いていた。
やがて、塔の中央部にたどり着くと、巨大な石棺が置かれていた。棺の上には、奇妙な模様が刻まれており、不吉な雰囲気を漂わせていた。「これは…」イシェは声を失った。
「これが古代の毒物に関する記録が残されている場所だ」テルヘルは言った。「棺を開けると、その記録に触れることができるだろう」
ラーンが棺の蓋を開けようとすると、イシェが手を止めた。「待て！何か変だぞ…あの模様…まるで警告のように感じるんだ」
しかし、ラーンの好奇心は抑えきれなかった。彼は無理やり棺の蓋を開けた。その瞬間、棺の中から黒い煙が立ち上り、三人は激しい咳き込みに襲われた。
「これは…毒ガスか！」イシェは叫んだ。「すぐに逃げろ！」
三人は coughingしながら、塔から脱出しようと走り出した。しかし、ラーンは突然足が止まった。顔色が悪くなり、苦しそうにうめいていた。「ぐっ…動けない…」
イシェがラーンの肩を叩くと、彼の体から黒い煙が立ち上り始めた。それはまるで、ラーンの体から毒が漏れているようだった。「ラーン！」イシェは絶叫した。
テルヘルは冷静さを保ち、小さな瓶を取り出した。「これは解毒薬だ。すぐに飲ませろ」
イシェはラーンに解毒薬を飲ませた。しかし、彼の呼吸は弱々しく、意識は朦朧としていた。「大丈夫か？ラーン！」
ラーンの顔には苦痛の色が浮かんでいた。「イシェ…あの塔…危険だ…」彼は力なくつぶやいた。
テルヘルは冷静に状況を判断した。「毒見を施せば、この毒の antidote を探せるだろう。ビレーの錬金術師に相談してみよう」
イシェはラーンの腕を抱きしめながら、涙を流していた。「大丈夫だ…必ず助けてやる…」