「よし、今回はあの崩れた塔だ! 噂じゃ、奥深くには未開の部屋があるらしいぞ!」ラーンが目を輝かせながら地図を広げた。イシェは眉間に皺を寄せた。「また、そんな曖昧な情報に飛びつくのか? 以前も言っただろう、危険すぎる場所には近づかない方が良い」
「大丈夫だ、イシェ!俺たちにはテルヘルがいるじゃないか。あの娘の知識と経験があれば、どんな罠も突破できるぞ!」ラーンは自信満々に笑った。テルヘルは薄暗い tavern の隅で静かに酒を飲んでいた。彼女の瞳には、燃えるような怒りと、どこか寂しげな影が宿っていた。ヴォルダンへの復讐。それは彼女を生き延びるための理由であり、同時に全てを奪われた過去への執念でもあった。「よし、了解だ。今回は俺たちにも少しだけ報酬を頂戴するぞ」テルヘルは静かに言った。その言葉には、かつて失った栄光と、未来への希望が込められていた。
崩れた塔は、かつて栄華を誇っていた王国に存在した魔法の研究施設だったという。しかし、今は朽ち果てた石組みと、風に吹き飛ばされる埃で満たされているだけだった。ラーンが先頭を切り、イシェが後を追う形で塔の中へ足を踏み入れた。テルヘルは後ろから二人を見つめながら、周囲を警戒していた。
塔内は薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。崩れ落ちた天井から差し込むわずかな光だけが、埃舞う空間を照らしていた。ラーンの足音が、石畳の上で鈍く響き渡るたびに、二人の心臓は高鳴った。「ここからは慎重に進もう」イシェは小声で言った。ラーンは頷きながら、剣を握りしめた。
奥深く進むにつれて、壁には不思議な模様が刻まれていた。それはまるで、失われた文明の残響のように、かすかな光を放っていた。イシェは奇妙な模様に手を伸ばそうとしたが、テルヘルがそれを制止した。「触るな!あの模様に触れると、危険な魔法が発動するかもしれない」
「何を知っているんだ?」ラーンの視線がテルヘルに向けられた。彼女は一瞬だけ躊躇した後、ゆっくりと口を開いた。「この塔は、かつてヴォルダンと対立していた王国が使用していたという記録が残されている。そして、その壁画は、彼らの魔法を封じるための装置だったらしい」
「つまり、ヴォルダンがそれを奪ったのか?」ラーンの表情が曇った。「そうかもしれない。あの男は、あらゆる力を手に入れるために手段を選ばない」テルヘルの声に、復讐への決意がこもった。
塔の奥深くを進んでいくと、巨大な扉が現れた。その扉には、複雑な紋様が刻まれており、空中に不思議な光を放っていた。それは、まるで古代の文明から残されたメッセージのようだった。
「これは…!」イシェは目を丸くした。「この紋様は、かつてヴォルダンが私から奪った遺物と同じものだ…」テルヘルは震える声で言った。その目は、復讐の炎で燃え盛っていた。