ビレーの朝焼けは、いつもより鮮やかに空を染めていた。ラーンが宿屋から飛び出すと、イシェがいつものように眉間にしわを寄せて待っていた。「遅刻だぞ、ラーン。今日はテルヘルが急いでいると言ってた」。「わかってるわかってる、すぐ行くってば」ラーンの笑い声は、いつもより少し高かった。
遺跡へと続く道は険しく、足元には石ころが転がっている。イシェは慎重に歩を進めるが、ラーンは軽快に駆け抜けていく。「おい、待てよ！」とイシェが叫んでも、ラーンの姿はもう見えなくなっていた。
遺跡の入り口は、崩れかけている石造りの門だった。テルヘルが立ちはだかり、不機嫌な顔で二人を見下ろす。「 tard！いつも遅刻するとは…」彼女は鋭い視線でラーンを睨む。「今回は特に重要だ。準備はいいか？」
イシェはうなずき、ラーンの様子を見てため息をついた。テルヘルは地図を広げると、遺跡の内部構造を説明し始めた。しかし、イシェの耳には入っていなかった。ラーンの視線がどこか遠くを見据えていることに気がついたからだ。彼の瞳に、いつもと違う何かが宿っているようだった。
遺跡内部は、湿気と埃で充満していた。壁には古びた絵画が残され、歪んだ文字が刻まれている。イシェは懐中電灯の光を当てて確認する。「これは…古代ヴォルダン人の文字だ」。「何だと言った？」ラーンの声が荒い。イシェは驚いて振り返った。ラーンの顔色は蒼白で、瞳孔が大きく開いている。
テルヘルは冷静に状況を把握し、「ヴォルダン人は、この遺跡から何かを隠したらしい。それが我々の目的だ」と告げた。「しかし、注意が必要だ。ここは危険な場所だぞ」。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいく。通路は狭く、天井からは鍾乳石がぶら下がっている。足元には滑りやすい岩がゴロゴロ転がっている。イシェは気を付けて歩を進めるが、ラーンは焦燥感に駆られるように急いでいるようだった。
突然、地面が激しく揺れ始めた。壁から崩落音が響き渡り、埃と石塵が空中に舞う。イシェはバランスを崩し、よろめいた。ラーンの叫び声がかすかに聞こえた。「イシェ！」
イシェは立ち上がり、ラーンを探したが、彼の姿は見えない。恐怖がイシェを襲った。「ラーン！」彼女は声を張り上げて叫んだ。
その時、彼女の足元から何かが光り始めた。それは歪んだ形状をした石板だった。石板からは不気味な力を感じ、空気が distort しているように見えた。イシェは恐怖で言葉を失い、石板をじっと見つめた。
その瞬間、石板から黒い影が立ち上がり、ラーンに向かって襲いかかった。