ビレーの賑やかな市場を背に、ラーンとイシェはテルヘルについていく。三人は新たな遺跡に向かう途中だった。テルヘルはいつもより表情が硬く、地図を広げながら何かを呟いている。「ここだ。この遺跡にはヴォルダンが秘かに探し求めているものがある。」
ラーンの顔色が変わった。「おい、テルヘル、また危険な話かい？あの大国が目をつけたら、俺たちなんて粉々だぞ。」「だから、慎重に進めるんだ」とイシェは冷静に言った。「テルヘルが言うように、ヴォルダンにとって重要なものなら、価値があるはずだ。リスクに見合うだけの報酬が得られるだろう。」
遺跡の入口は崩れかかった石造りのアーチだった。内部は薄暗く、埃っぽい空気でいっぱいだった。ラーンは剣を手にし、警戒しながら進む。「ここは以前から調査してる遺跡らしいな。ヴォルダンもここを狙ってるってことは、何か重要なものがあるはずだ。」
「そうだろう」とテルヘルは言った。「この遺跡には、ヴォルダンが奪った私の故郷の文化遺産が眠っている。それを取り戻すため、私はどんな危険も冒す覚悟がある。」
イシェはテルヘルの言葉に少し戸惑いを感じた。彼女には、単なる復讐心だけではない何かを感じ取れた。だが、今は彼女の真意を問うわけにはいかなかった。三人は遺跡の奥深くへと進んでいった。
暗い通路を進み、やがて広間に出た。中央には巨大な石棺が置かれていた。石棺の上には複雑な模様が刻まれており、かすかに光り輝いている。
「これだ」とテルヘルは言った。「ヴォルダンが奪った私の故郷の聖なる遺物だ。」彼女はゆっくりと石棺に近づき、手を伸ばした。その時、石棺の蓋が開き、中から黒い煙が立ち上った。煙の中から、不気味な声が響き渡った。
ラーンは剣を構え、イシェも警戒 stance を取った。「これは...！」テルヘルは声を張り上げた。「ヴォルダンが仕込んだ罠だ！逃げろ！」三人は慌てて石棺から離れようとしたが、黒い煙は彼らの前に壁を作り、逃げ道をふさいでいた。
「この遺跡を破壊すれば、ヴォルダンに危害を加えることができる。」とテルヘルは言った。「しかし、その代償は大きすぎる。故郷の文化遺産も失うことになる。」
イシェは迷った。ラーンは怒りを露わにしていた。「俺たちは、どんな犠牲を払っても正義を守るべきだ！」
イシェは深く息を吸い、決意した。「私は、テルヘルの気持ちに共感する。しかし、無益な犠牲は避けたい。別の方法を探そう。」
ラーンの怒りは、イシェの冷静さによって少し収まった。「よし、お前が言うなら、俺も信じる。だが、もしヴォルダンを放っておけば、また無実の人々が苦しむことになるだろう。」
三人は協力して、遺跡の罠を解除する方法を探し始めた。彼らは互いに助け合い、それぞれの強みを活かして困難に立ち向かった。そしてついに、黒い煙を封じる方法を見つけたのだ。
遺跡から脱出した三人は、疲弊しながらも安堵した。イシェはテルヘルに向かって言った。「復讐心だけで行動するのではなく、正義とは何か、改めて考えさせられました。」
テルヘルは静かに頷いた。「私も、あなたたちから多くのことを学んだ。」彼女は少しだけ優しい表情を見せた。
三人はビレーに戻り、遺跡で得た情報と経験を共有した。彼らは、正義のために戦うためには、単なる力だけでなく、知恵や友情、そして互いを理解する心も必要だと深く実感していた。