ビレーの夕暮れは、いつもより少し鮮やかに燃えていた。ラーンがそう思ったのは、イシェの顔色を見ても分かるからだった。彼女はいつもよりも口数が少なく、眉間に皺を寄せて、遺跡から持ち帰った小さな石片を握りしめていた。
「どうしたんだ、イシェ？珍しいな、こんな顔をするなんて」
ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。
「何もないわ。ただの疲れね」
だが、その表情は嘘をついていると言っていた。ラーンはイシェの横に座り、肩を軽く叩いた。
「何かあったら話してくれよ。俺たち仲間だろ？」
イシェは少しだけ顔を上げ、ラーンの目をまっすぐ見た。そして、ゆっくりと石片を掌から開いた。そこには、かすかに光る青い模様が刻まれていた。
「これを見て」
イシェの声は震えていた。「これは…遺跡の奥深くで見つけたものなの。今まで見たことのない記号で、まるで…まるで生きているみたいだった」
ラーンの心は高鳴り始めた。イシェが興奮する様子を見るのは初めてのことだった。いつも冷静沈着な彼女が、こんなにも熱く語る姿は、ラーンにとって新鮮な驚きだった。
「すごいな！まさかこんなものが見つかるなんて！」
ラーンは思わず立ち上がり、石片を奪い取ろうとした。だが、イシェはぎゅっと握りしめ、ラーンの手を振り払った。
「待ちなさい、ラーン。これは…ただの石じゃない。何か大きな意味があると思うの」
イシェの瞳は、今まで見たことのない光を放っていた。それは、好奇心と、そしてどこか切ないような、希望に満ちた光だった。
「この石が、私たちに何を見せてくれるのか…」
イシェの声はかすかに震えていたが、その中に確信のようなものを感じ取ることができた。ラーンの胸にも、熱いものが込み上げてきた。
「よし、わかった！一緒に確かめようぜ！」
ラーンは力強く言った。イシェの瞳に映る光を、まるで自分のもののように感じていた。そして、二人は互いに握り合わせた手と共に、ビレーの夕暮れに照らされて、新たな冒険へと歩み出した。