ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝霧を切り裂いた。イシェは眉間にしわを寄せながら、粗雑にまとめられた荷物を確認した。いつも通り、ラーンは計画も準備もなしに遺跡へと飛び込もうとする。
「待てよ、ラーン。今回は少し違うぞ。テルヘルが言うには、あの遺跡は特に危険だと言うんだ」
イシェの言葉にラーンは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「大丈夫だよ、イシェ。俺には剣があるし、お前がいるじゃないか。それに、テルヘルが言うような大穴が見つかったら、この街で暮らすことは終わりだ!俺たちは自由に生きていくことができるんだ!」
ラーンの目は輝いていた。自由への憧憬は、彼を常に突き動かしている原動力だった。イシェはそんなラーンの瞳に映る未来を想像しながら、小さくため息をついた。自由か...確かに、あのヴォルダンとの国境紛争が続くこの時代には、自由を求める者も多かった。しかし、イシェの頭の中をよぎるのは、もっと現実的な問題だった。
「でも、ラーン。あの遺跡は危険だって言うんだぞ。それに、テルヘルが報酬としてくれるのは僅かな金だけだ。本当にそれで生きていけるのか?」
イシェの言葉は、空気を冷たくした。ラーンの笑顔は少し曇った。確かに、最近では遺跡探索で得られる遺物もめぼしいものが出てこなかった。食料や衣服、武器などは常に不足気味で、ビレーの人々は日々の生活に追われていた。
「なあ、イシェ。お前も分かってるだろう?俺たちはもう、この街で生きていくことはできないんだ」
ラーンの声は弱々しくなっていた。イシェは深くため息をつきながら、彼の肩を軽く叩いた。
「わかったよ、ラーン。一緒に遺跡を探そう。そして、いつか...必ず、この街から抜け出せる日が来るさ」
二人は互いに励まし合うように言葉を交わし、テルヘルに合流するため、ビレーの街を出た。後ろには、貧困と不安で満たされた街並みと、彼らが追いかける自由への渇望が残されていた。