ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声を上げていた。「おい、イシェ！今日の成果は悪くなかっただろう？あの古代の錠前、見事に開けただろ？」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの肩を軽く叩いた。「確かに価値のあるものだった。だが、テルヘルさんの要求に応えるにはまだ足りない。」
ラーンが苦笑いした。「そうだな。あいつはいつも欲張りだ。でも、その分報酬もいいんだ！」
イシェは視線を酒場の隅に向けた。そこに座るテルヘルの姿があった。彼女はいつもと変わらず冷静に酒を傾けていたが、鋭い眼光で周囲を見渡しているように見えた。
「あの遺跡の奥深くには、もっと大きな宝物が眠っているはずだ」とテルヘルは言った。「今回の成果を元に、次の探検計画を立てよう。」
ラーンが意気揚々と頷こうとしたその時、イシェはテルヘルの言葉に何かを感じ取った。彼女の表情には、今までになかったわずかな狂気が宿っていた。
「待ってください、テルヘルさん」イシェは慎重に言った。「今回の成果を元に、次の探検計画を立てるのは当然だが...あの遺跡について、あなたは何を知っているのですか？なぜそこまで執拗にその場所を探しているのか？」
テルヘルは一瞬だけ視線を逸らし、ゆっくりと口を開いた。「それは...私の秘密だ。」
イシェは少し困惑した様子を見せたが、ラーンは全く気にしなかった。彼はテルヘルの言葉に何も感じていなかったのだ。しかし、イシェの心には不安な予感が広がっていた。テルヘルは何かを隠している。そして、その秘密は彼らの命を危険にさらす可能性があると感じた。
次の探検に向かう時、イシェはラーンの無邪気さに少しだけ嫉妬した。彼は何も感じない。何も知らない。しかし、イシェはすでに影を感じていた。テルヘルの言葉の裏側にある何か...それは、彼らを待ち受ける大きな渦に巻き込む危険な権謀の始まりだった。