ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが酒をぐいっと傾けた。
「おいイシェ、あの遺跡の地図、また見直してんのか？ そんな細部にこだわってても、結局大穴は見つからないぞ！」
イシェは眉間にしわを寄せながら、テーブルに広げた地図を指さした。「そうじゃないんだ、ラーン。この記号…もしかしたら、これはただの模様じゃなくて、何かしらの権能を示すものなんじゃないか？ だから、場所や配置が重要なんだ」
ラーンの耳には「権能」という言葉はピンと来なかった。彼にとって遺跡探索とは、あくまで宝探しだった。イシェの慎重さは理解できたが、そんな抽象的なものに時間を費やすのは無駄だと考えていた。
そこにテルヘルが合流した。「準備はいいか？ 今日はあのヴォルダンの兵士が頻繁に出没する場所に行くんだ。気を引き締めろ」
テルヘルの言葉にラーンは緊張感を覚えた。彼女はいつも冷静で、目的を達成するためには手段を選ばない。そんな彼女でもヴォルダンへの憎しみを隠さないのは、彼らには理解できない世界があったからだろう。
遺跡へと続く道は険しく、危険な罠が待ち受けていた。ラーンは剣を構え、イシェは足取り軽く周囲を探りながら進んだ。テルヘルは常に冷静さを保ち、地図と照らし合わせながら進む方向を決めていた。
遺跡の中心部には巨大な石碑が立っていた。その表面には複雑な模様が刻まれており、イシェの目を輝かせた。
「これは…！」イシェが興奮気味に言った。「この記号は確かに権能を示している！ そして、この配置…もしかしたら、この石碑自体が何かしらの力を秘めているんじゃないか？」
ラーンはイシェの言葉を聞きながら、石碑をじっと見つめた。そこには確かに独特のエネルギーを感じた。まるで、眠りから覚めようとしているかのようだ。
テルヘルは石碑に手を触れ、目を閉じた。「この場所…ヴォルダンが恐れる力を持つ場所なのかもしれない…」彼女は呟いた。その目は燃えるような光を放っていた。
ラーンとイシェは彼女の言葉の意味を理解するのに時間がかかった。だが、彼らの目の前に広がる遺跡の謎と、テルヘルの復讐への執念。そして、そこには隠された「権能」の存在を感じた。それは、彼らの人生を大きく変えることになる予感を漂わせていた。