「よし、今日はここだ」ラーンが地図を広げ、指を置いた場所を示した。イシェは眉間にしわを寄せた。「また遺跡か?あの辺りはヴォルダン領に近いぞ。危険すぎるんじゃないのか?」
「大丈夫だ、大丈夫。俺たちならなんとかなるさ」ラーンの自信に満ちた声に、イシェはため息をついた。
テルヘルは冷静な目で地図を眺めた。「ヴォルダンの哨戒が強化されているとの噂があった。慎重に進まなければ」彼女の言葉は重かった。
遺跡への道は険しく、獣の足跡や朽ち果てた建造物の残骸が行く手を阻んだ。ラーンは先頭に立ち、剣を構えながら道を切り開いた。イシェは後方から彼の様子を警戒しながら、テルヘルと歩調を合わせた。
「あの遺跡は、かつてエンノル連合に大きな影響力を持つ貴族の屋敷だったという話だ」テルヘルが口を開いた。「権力の象徴とも言える場所だったらしい」
イシェは振り返り、テルヘルの顔色を伺った。「その貴族は何者だったのか?」
「ヴォルダンとの戦争で滅んだ一族だ」テルヘルは静かに言った。「彼らが遺した物は、ヴォルダンにとって大きな脅威になるかもしれない」
遺跡の入り口にたどり着いた時、ラーンは興奮気味に叫んだ。
「よし、宝が眠ってるぞ!」イシェはラーンの背中に手を置き、落ち着かせようとした。「待て、ラーン。まずは状況を確かめろ」
しかしラーンの耳には届かなかった。彼は遺跡へ駆け込み、闇の中へと消えていった。イシェはため息をつき、テルヘルに視線を合わせた。
「彼のことだから、きっと何か大騒ぎを起こすだろう」
テルヘルは静かに頷いた。「そうだな。そして、権力は常に争奪の対象だ。我々もその中にいることを忘れてはならない」