ラーンが石ころを蹴飛ばすと、イシェに叱られた。「落ち着いて、ラーン。あの遺跡にはまだ入ったことがないんだぞ？ 慎重に進まないとテルヘルの怒りを買うことになるだろう。」イシェの言葉通り、テルヘルは険しい顔で彼らを睨んでいた。「あの遺跡はヴォルダンがかつて支配していた場所だ。何か手がかりがあるかもしれない。失敗は許されない。」
ラーンの目の前には、巨大な石造りの門がそびえ立っていた。門の上部には、ヴォルダンの紋章が剥げ落ちながら残っている。イシェは古い地図を広げて確認する。「この遺跡は、かつてヴォルダンが周辺地域を支配するための拠点だったようだ。地下には広大な倉庫や武器庫がある可能性が高い。」
「宝探しの話なら分かるが、ヴォルダンと関係のある遺跡を掘り起こすのは危険すぎるぞ」ラーンは不安げに言った。「あの大国との戦いは、エンノル連合全体が巻き込まれるほどの事態になる恐れがある。それに…」ラーンは言葉を濁した。イシェは彼の思いを知っている。「あの時、ヴォルダンに家族を奪われたことは忘れないだろう。」
テルヘルは彼らのやり取りをじっと見つめていた。「私はヴォルダンへの復讐を果たすためだ。そのために必要なものは何でも手に入れる。この遺跡には、ヴォルダンの権力を弱体化させる鍵があるかもしれない。」
ラーンの心は揺れ動く。イシェの慎重さとテルヘルの強い意志の間で、彼は葛藤していた。しかし、目の前に広がる遺跡への好奇心と、大穴を掘り当てたいという夢が彼を駆り立てる。深呼吸をして決意を固めた。「よし、行こう。危険でも、俺たちは一緒に乗り越える。」
イシェはラーンの手を取り、「気をつけろ、ラーン」と優しく言った。テルヘルは満足げにうなずき、遺跡の門に向かって歩き始めた。三人は影が伸び始めた夕暮れの光の中で、未知なる世界へと足を踏み入れた。