「よし、ここだ！」ラーンの声がビレーの賑やかな市場に溶け込んだ。イシェは眉間に皺を寄せながら彼を見つめた。「また行き当たりばったりか？ テルヘルさん、本当にこの男に任せても大丈夫なのかしら？」
テルヘルは冷ややかな目でイシェを睨みつけた。「彼は危険な場所へも臆しない勇気を持っている。それが今、私たちに必要なものよ。」彼女は地図を広げ、指で遺跡の位置を示した。「ここだ。古代ヴォルダン人が崇拝していたという『楽土』への入り口があると噂されている場所だ。」
ラーンは目を輝かせた。「楽土か！もしかしたら、そこで大穴が見つかるかもしれないな！」イシェはため息をついた。「また夢物語を…」
三人は辺境の町から離れ、荒涼とした山脈へと足を踏み入れた。険しい岩肌をよじ登り、深い谷底を渡る。危険と隣り合わせの道だったが、ラーンの陽気な声とテルヘルの冷静な指示が彼らを鼓舞した。
数日後、彼らは遺跡の入り口を見つけた。崩れかけた石造りの門には、忘れ去られた古代文字が刻まれていた。「ここが楽土への入り口なのか…」イシェは不安そうに呟いた。
「さあ、準備だ。」テルヘルは剣を抜き、鋭い視線で周囲を警戒した。「楽土には何があるのか？ それを知るために我々はここに来たのだ。」
ラーンは深呼吸し、剣を構えた。「よし、行こう！」
彼らは遺跡の内部へと足を踏み入れた。そこは、かつて栄華を極めた都市の面影が色濃く残る場所だった。壁には精巧な彫刻が施され、床には美しいモザイク画が敷き詰められていた。しかし、今は静寂に包まれ、埃と影が支配していた。
遺跡の中心部では、巨大な祭壇がそびえ立っていた。その上に、輝く宝石が埋め込まれた黄金の箱が置かれていた。「これが楽土か…」イシェは息をのんだ。
その時、地面が激しく揺れ始めた。天井から石が崩れ落ち、あたり一面を闇が包んだ。ラーンは剣で崩落物を払いのけながら、「何だこれは！」と叫んだ。
「ヴォルダン人だ！」テルヘルは鋭い眼光で周囲を見回し、低い声で言った。「彼らは楽土の秘密を狙っているのだ！」
影の中からヴォルダン人の兵士たちが現れた。彼らは黒い鎧を身にまとい、手には鋭い剣と槍を携えていた。激しい戦いが始まった。ラーンは勇敢に敵陣に切り込み、イシェは素早い動きで敵の攻撃をかわし続けた。テルヘルは冷静沈着に戦い、強力な魔法で敵をなぎ倒した。
しかし、ヴォルダン人の数は多く、次第に三人は追い詰められていった。ラーンは深く傷つき、イシェも力尽きかけていた。その時、テルヘルが立ち上がり、「私を信じて！」と叫んだ。彼女は古代の呪文を唱え始めた。すると、祭壇の黄金の箱から光が放たれ、遺跡全体に広がった。
その光はヴォルダン人を寄せ付けなくし、三人は辛くも逃げ延びることができた。彼らは崩れ行く遺跡を後にして、辺境の街へと戻っていった。
「楽土は…」イシェは疲れた顔で言った。「結局、何だったのか…」
テルヘルは沈黙したまま、夜空を見上げた。彼女は心の中でつぶやいた。「楽土は、まだ見ぬ未来への希望だ。」