「準備はいいか?」ラーンの問いかけに、イシェは小さくうなずいた。テルヘルはいつものように無口だった。三人はビレーの街はずれにある遺跡へと向かった。
遺跡の入り口には崩れかけた石造りの門が横たわっていた。ラーンが軽々とそれを乗り越えると、イシェが振り返り言った。「あの椅子は何だ?」
石造りの椅子が一つ、崩れた壁際に置かれていた。奇妙な模様が刻まれていて、どこか不気味な印象を与える。テルヘルは眉をひそめた。「気にしない方がいい。急いで中に入ろう。」
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。足元の石畳は苔むし、ところどころ崩れかかっていた。ラーンが先頭を切り、イシェとテルヘルが後ろについていった。
しばらく歩くと、広間に出た。天井から光が差し込み、中央には大きな祭壇が置かれていた。祭壇の上には金色の椅子が鎮座していた。その輝きは、周囲の暗闇を照らし出すほどだった。
「あれだ!」ラーンが興奮気味に叫んだ。「宝だ!あの椅子はきっと…」
しかし、イシェはラーンの肩をつかみ、「待て!」と制止した。何かがおかしい。祭壇から不気味な音が聞こえてきたのだ。
その時、祭壇の後ろから影がゆっくりと現れた。それは巨大な怪物だった。鋭い牙と爪を持ち、赤い目を光らせていた。
ラーンは剣を抜いて立ち向かったが、怪物は圧倒的な力で彼を吹き飛ばした。イシェは恐怖で硬直している間に、テルヘルが素早く動き、怪物に剣を突き刺した。しかし、剣は怪物に届かず、床に深く刺さった。
イシェはようやく我に返り、椅子に目をやった。祭壇の椅子には、奇妙な模様が刻まれていた。まるで、椅子自体が何かを呼び覚ますように。
「あの椅子だ!」イシェが叫んだ。「あの椅子が怪物を引き寄せたのだ!」