「あの塔の奥には、巨大な宝が眠っていると聞いたことがあるんだ」
ラーンは興奮気味にイシェの肩を叩き、ビレーの酒場から見渡す夕日に染まる山脈を指さした。イシェは眉間に皺を寄せてラーンの目をじっと見つめた。
「またそんな話を?」
「今回は違う!本当の話なんだって!あの塔は昔、ヴォルダン軍に占領されたんだが、抵抗を続ける民兵たちが最後の力を振り絞って、塔の奥深くにある部屋に宝を隠したらしい」
ラーンは熱く語り始めた。イシェは彼の話にはいつも懐疑的だったが、今回は何かが違うと感じた。ラーンの表情はいつもより真剣で、声にも力強さがあったからだ。
「そしてその民兵たちは、ヴォルダン軍に捕らえられ処刑されたという話だ。宝のありかを知る者はもういないはずだ」
ラーンの言葉にイシェは深く頷いた。
「つまり、あの塔には誰も入ったことがないということか?」
「そうだ!だからまだ誰にも見つかっていなければ…」
ラーンは興奮気味に言葉を続けたが、イシェは彼の言葉を遮った。
「待てよ、ラーン。ヴォルダン軍が占領した塔だというのは本当か?もし事実なら、ヴォルダン軍が宝を手に入れた可能性もあるだろう」
ラーンの目は一瞬曇った。しかしすぐにいつもの笑顔を取り戻し、イシェの肩を叩いた。
「大丈夫だ!あの塔はヴォルダン軍に占領されてから何年も放置されている。宝を見つけるのは僕ら次第だ!」
イシェはラーンの言葉に苦笑しながらも、彼の熱意に押され始めていた。
その時、背後から低い声が聞こえた。
「あの塔について詳しく知りたいなら、私に案内させてもらおう」
イシェとラーンが振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の目は鋭く、どこか物憂げな表情を浮かべていた。ラーンの提案に賛同するようだと誤解したのか、テルヘルは少しだけ口角を上げた。
「案内人なら、僕らに代り危険を犯すことも厭わないでしょう?」
ラーンがそう言うと、テルヘルは少し微笑んだ。
「もちろん。私は目的のためならばどんな犠牲も払う覚悟がある」