「おい、イシェ、まだ迷ってるのか?日が暮れるぞ!」ラーンの声がビレーの街並みを縫うように響き渡った。イシェはため息をつきながら、地図を睨んでいた。
「あの洞窟…本当に安全か分からないわ。ラーン、あの遺跡は危険だって聞いたのよ」
「大丈夫だって!俺が行くから。ほら、テルヘルも待ってるぜ!」
ラーンの言葉に誘われるように、イシェは重い腰を上げた。彼女はテルヘルの提案を受け入れて以来、様々な遺跡を探検してきたが、今回の依頼は不安を感じさせた。ヴォルダンとの国境に近い場所にある遺跡で、地元の伝承によれば、そこには強力な魔物が眠っていると伝えられていたのだ。
「まあ、あの洞窟は確かに危険かもな」テルヘルは冷静に言った。「だが、その中に眠る遺物は、我々の目標達成に不可欠なものなんだ」
彼女の目は冷酷に輝いていた。ヴォルダンへの復讐を果たすため、テルヘルはどんな犠牲もいとわないようだった。イシェは胸が締め付けられるような予感がした。
洞窟の入り口に近づくにつれて、空気が重く淀んでいった。不気味な静寂の中、イシェは背筋をぞっとさせる感覚に襲われた。ラーンは気にせず、剣を手に取り、洞窟に飛び込んだ。
「よし!俺が先導だ!」
彼の後ろからイシェとテルヘルが続く。洞窟内部は暗く湿っていて、不規則な形をした岩肌が不安を掻き立てる。
「気を付けて…何かいるかもしれないわ」イシェは小声で言った。
しかし、ラーンは楽しそうに笑いながら進んでいった。「大丈夫だ、俺について来れば安全だぞ!」彼の言葉に、イシェは苦笑した。ラーンの根性にはいつも感心させられるが、彼の無鉄砲さも時に恐ろしいと感じた。
深まる闇の中を進んでいくと、やがて巨大な石室に出た。そこには、黄金の光を放つ巨大な宝箱が置かれていた。
「やった!大穴だ!」ラーンの目が輝き、興奮を抑えきれなかった。イシェも思わず息を呑んだ。確かにそれは莫大な価値を持つ宝物だった。
しかし、その時、石室の奥から不気味な音が響き渡った。巨大な影がゆっくりと動き始めたのだ。
「これは…!」テルヘルの顔色が青ざめた。
ラーンは宝箱に手を伸ばそうとしたが、イシェは彼を引っ張って後ずさりした。「ラーン、待て!あの影…」
影が明かりの中へ飛び出した時、その正体が分かった。それは巨大な竜だった。鋭い牙と爪、そして赤い目には狂気の光が宿っていた。
「逃げろ!」テルヘルが叫んだ。
しかし、遅かった。竜は咆哮と共に襲いかかってきた。ラーンの剣は竜の鱗に弾かれ、イシェは恐怖で立ちすくんでしまった。
その時、ラーンは立ち上がった。「イシェ、逃げるな!俺は必ず守る!」
彼は再び竜に立ち向かった。彼の目は決意に燃えていた。イシェはラーンの背中に熱いものがこみ上げてきた。彼は根性で、決して諦めない。そして、仲間を守るために命を懸けるのだ。