「おい、イシェ、今日はいい感じだぞ!」ラーンの声が、石化した空気を切り裂くように響いた。薄暗い遺跡の奥深くで、彼は興奮気味に巨大な石門を指さしていた。イシェは眉間に皺を寄せながら、石門の表面を慎重に観察した。「待てよ、ラーン。この模様…どこかで見たような…」
「そんなこと言ってても始まらないだろう?早く開けろよ!」ラーンの不 impatience は、石門に叩きつけられたハンマーの音と共に爆発した。石塵が舞い上がり、イシェの視界を遮る。彼女は咳払いしながらも、石門の一部が崩れ落ちていることに気がついた。「よし、これで入れるぞ!」ラーンは叫び、先頭を切って石門をくぐり抜けた。イシェはため息をつき、彼の後を追った。
広がる遺跡内部は、まるで巨大な迷宮のようだった。壁には複雑な模様が刻まれ、床には光る結晶が埋め込まれていた。ラーンの目は輝き、イシェの心は冷ややかな冷静さを保っていた。
「ここだ!」ラーンの声が響き渡った。彼は石柱の前に立ち止まり、両手を広げていた。その石柱には、まるで生き物のように複雑に絡み合う模様が刻まれていた。「これは…!」イシェは言葉を失った。あの日、彼女が見た図書に描かれていたものとそっくりだった。伝説の「大穴」の鍵となる、古代文明の秘宝だ。
しかし、その瞬間、背後から冷たい声が響いた。「なかなか興味深い場所ですね。」テルヘルが、鋭い視線で彼らを睨んでいた。彼女の後ろには、黒曜石のように輝く剣を携えた影の軍勢が並んでいる。
「テルヘル…!」ラーンの顔色が変わった。「お前は一体何を…!」
テルヘルの唇がゆっくりと動いた。「私は、この遺跡を利用してヴォルダンに復讐を果たす。そして、お前たちはこの計画の一部になるのだ。」彼女は冷酷な笑みを浮かべながら言った。「抵抗するつもりなら、今すぐやめるべきだ。」
イシェはラーンの視線を追った。彼の目は、恐怖ではなく、燃えるような闘志で輝いていた。彼はゆっくりと剣を抜き、その刃が石の床に反射した光を浴びてきらめいた。「お前には、俺たちが何を大切にしているか分かってないんだ!」
イシェは小さく息をついた。ラーンの言葉は荒々しいが、そこに確かに彼の強さがあった。そして、イシェ自身も、この遺跡で何かを見つけた気がしていた。それは、単なる財宝ではなく、自分たちの信じるもの、守りたいものだった。彼女は決意を固め、ラーンの横へ立ち、自分の剣を構えた。
「よし、やろうじゃないか、ラーン。」彼女の言葉は、硬い意志に満ちていた。
柔よく剛を制す。イシェの冷静さとラーンの熱情が織りなす戦いが、今、始まろうとしていた。