「おいイシェ、今日はいい感じの場所が見つかったぞ!」ラーンの声がビレーの朝霧を切り裂いた。イシェは彼の手がけする粗雑な地図を眺めながらため息をついた。「またか、ラーン。あの遺跡は危険だって聞いたぞ。それに、今日の仕事はどうなるんだ?」
「心配するな、イシェ。テルヘルが報酬を増やしてくれたはずだ。あいつのことだから、何かいい情報があるんだろう。」ラーンはそう言って、軽快に街を出た。イシェは後ろから彼を追いかけるようにして歩き出した。
テルヘルとの出会いは、ビレーの住民にとって奇妙な出来事だった。黒曜石のような眼差しと冷徹な態度で、まるでヴォルダンからの使者かと思わせるような雰囲気だった。彼女はラーンの無謀さを利用し、遺跡の探査を依頼していた。
「あの遺跡は危険だと言っているだろうに...」イシェは呟いた。「なぜ、テルヘルがそんな危険な場所にこだわるのか?」
ラーンは答えずに、遺跡の入り口に立っていた。深い闇の中に吸い込まれそうなような巨大な穴口だった。イシェの胸を締め付けるような予感がした。
「よし、行こう!」ラーンの声が響き渡った。イシェは深くため息をつき、彼の後を続いた。
遺跡内部は薄暗い通路で、不気味な静けさに包まれていた。壁には古びた絵画が描かれており、その中には奇妙な儀式や邪悪な怪物が描かれていた。イシェは背筋が寒くなるような感覚を覚えた。
「何か感じる...」イシェは小声で言った。「この遺跡から...何か邪悪なものを感じるの」
ラーンは笑い、「そんなものはないぞ、イシェ。ただの古い絵画だ。」と答えたが、彼の顔色も少し蒼白になっていた。
深く進むにつれて、空気は重くなり、視界が悪化した。イシェは足元を注意深く確認しながら歩いていた。
突然、ラーンが叫んだ。「イシェ、後ろだ!」
振り返ると、巨大な影が彼らに襲いかかっていた。それは巨大な虫のような姿で、鋭い牙と爪を持ち、悪臭を漂わせていた。
「何だ...これは!?」ラーンの顔は青ざめていた。
イシェはすぐに剣を抜き、ラーンと共に怪物に立ち向かった。しかし、その怪物は強靭で、二人はなかなか太刀打ちできなかった。
その時、テルヘルが現れた。「待て!」彼女は叫びながら、奇妙な石を地面に投げ捨てた。石は光り始め、怪物に激しく当たった。
怪物は悲鳴を上げて倒れ、消滅した。
「何だったんだ...あの石は?」イシェは驚愕してテルヘルを見た。
テルヘルは冷たい目で答えた。「これは、ヴォルダンが封印していた古代の魔物だ。この遺跡には、ヴォルダンが世界を支配するために利用しようと計画していた危険な力がある。」
イシェは言葉を失った。ラーンの無謀さは、彼自身を守るための行動ではなく、ヴォルダンの野望に利用されるためのものだったのかもしれない。
「そして、私はその力を手に入れるために、お前たちを利用したのだ」テルヘルの目は氷のように冷たかった。「お前たちの夢を叶えるために...いや、私の復讐を果たすために。」
イシェは彼女の言葉に、深い絶望を感じた。ラーンの無謀さは、彼自身を守るための行動ではなく、ヴォルダンの野望に利用されるためのものだったのかもしれない。そして、テルヘルは彼らを、自身の復讐のために利用していたのだ。
イシェは、自分たちが「枷」のようなものになってしまったことに気づいた。自分の夢や希望を、ヴォルダンとテルヘルの闘いの道具として利用されていたのだ。