ラーンが遺跡の入り口で興奮気味に剣を構えると、イシェはため息をついた。
「また大穴だなんて言うなよ。あの話、もう何年も聞かされてるわ」
「でもさ、今回は違う気がするんだ!」
ラーンはキラキラと目を輝かせた。イシェはそんな彼をじっと見つめた後、小さく笑った。
「そうだろうね、ラーン。きっと何か面白いものが見つかるわ」
テルヘルは二人を見下ろすように立ち、静かに言った。
「準備はいいか?あの遺跡には危険が伴う。特に今回は…」
彼女は言葉を濁した。だが、イシェはテルヘルの瞳に映る何かを感じ取った。
遺跡内部は薄暗く、湿った冷気が漂っていた。ラーンの足音が石畳に反響し、その音だけが彼らの存在を証明するようだった。
「何か…感じる」
イシェが呟くと、ラーンも静かに頷いた。彼らは互いに意思を通じ合わせるように、剣を握りしめ始めた。
先へ進むにつれ、遺跡の壁には複雑な模様が刻まれており、その一部は剥落してしまっていた。イシェは壁に描かれた記号を指差した。
「これは…?」
「ヴォルダンで使われていた紋章だ」
テルヘルは冷たい声で言った。「この遺跡はヴォルダンのものだったのか…」
ラーンの表情が曇った。彼はヴォルダンへの復讐を誓うテルヘルをずっと支えてきたが、その復讐の先に何があるのか、彼はまだ理解できていなかった。
その時、壁から不気味な光が放たれた。それはまるで…赤い目玉のように、ゆっくりと動き始めた。
「何だ?!"
ラーンは剣を振りかざしたが、光は彼らを嘲笑うように揺らめいた。
「これは…」
イシェの声が震える。その瞬間、遺跡の奥底から轟音が響き渡った。壁に刻まれた紋章が全て赤く輝き始め、空気を熱くするような力を感じた。
テルヘルは慌てた様子を見せながら言った。
「早く逃げろ!ここはもう…」
その時、彼女の背後から低い声が聞こえた。
「逃げるな…汝らは…」
影の中から、黒いローブをまとった男が現れた。彼の顔には深い皺が刻まれ、赤い光が宿る目だけが輝いていた。男はゆっくりと口を開き、言葉を発した。
「枢機…汝らの運命はここにあり」