「準備はいいか?」
ラーンが目を輝かせながら剣を構えると、イシェはため息をついた。
「いつも通り、計画性ゼロだね。あの遺跡の調査報告書くらい読めばわかるだろう。特に奥深くは危険だと…」
「大丈夫だ、イシェ。今回はテルヘルが一緒だぞ!きっと何か良いものが見つかるさ!」
ラーンの言葉に、イシェは苦笑した。テルヘルの存在は確かに頼りになった。彼女は遺跡の知識も豊富で、交渉術にも長けていた。だが、その冷徹な眼差しと目的のためなら手段を選ばない姿勢には、どこか引け目を感じた。
「よし、行こう!」
ラーンが先陣を切って遺跡へと入っていく。イシェはテルヘルと共に彼の後を続けた。遺跡の入り口は崩れ落ちた石造りの門で、風化で表面はざらついていた。内部は薄暗い光が差し込むだけで、湿った冷たい空気が漂っていた。
「ここは以前から調査していた遺跡らしいな。ヴォルダン軍が何かを探しているようだが、具体的な情報は掴めていない。」
テルヘルがそう言うと、イシェは小さく頷いた。ヴォルダンの脅威はエンノル連合全体に影を落としており、遺跡の探索にも影響を与えていたのだ。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいった。通路の壁には、かつてそこに存在した文明の痕跡が残っていた。剥ぎ取られた模様や、文字が刻まれた石版など、様々な材質で構成された遺物があった。
「これは…」
イシェは石版に目を留めた。そこに描かれていたのは、複雑な幾何学的な模様と、星図のような図形だった。
「珍しいものだ。これなら何か手がかりになるかもしれない。」
テルヘルも興味を示した。彼女は小道具を取り出し、石版を丁寧に撮影した。
その時、床から不気味な音が響き渡った。ラーンが剣を抜いて周囲を見回し、イシェは緊張した表情で後ずさる。
「何かいるぞ!」
ラーンの警告と共に、影のようなものが彼らに襲いかかってきた。それは巨大な蜘蛛のような姿で、鋭い牙と、粘液を分泌する触手を持っていた。その体は硬質の殻で覆われており、剣が通じないほど頑丈だった。
「これは…!」
イシェは恐怖を感じながら、その姿に言葉を失った。
ラーンは勇敢にも蜘蛛のような怪物に立ち向かい、剣を振り下ろす。しかし、その攻撃は有効打にならず、逆に蜘蛛の触手に捕らえられてしまう。
「ラーン!」
イシェが叫びながら、テルヘルと共に蜘蛛に襲いかかった。テルヘルは素早く daggers を抜き、蜘蛛の弱点である腹部を狙った。だが、蜘蛛の動きは速く、攻撃をかわされてしまう。
その時、イシェが閃いた。蜘蛛の体表を覆う硬質の殻は、石版の材質と似ていることに気づいたのだ。
「ラーン、その剣を!」
イシェが叫ぶと、ラーンは剣を振り上げて、蜘蛛の頭部に突き刺させた。剣は蜘蛛の頭部を貫き、その奥にある脆弱な部位に達したのだ。蜘蛛は悲鳴を上げながら倒れ、その巨大な体は崩れ落ちていった。
「なんとか…」
イシェが息を切らしながら言った。ラーンは傷つきながらも立ち上がり、テルヘルと共に蜘蛛の遺体を調べ始めた。
「これは…ヴォルダン軍が探していたものかもしれない。」
テルヘルがそう言うと、イシェは改めて石版と蜘蛛の遺体を見つめた。
「材質」…。あの石版の材質が、この怪物に共通するものだったのだ。そして、それはヴォルダン軍が何を求めているのかを示す重要な手がかりだったのかもしれない。