「よし、準備はいいか？」ラーンの豪快な声と足音がビレーの朝の静けさをかき消した。イシェは彼を睨みつけるように見つめた。「いつも通り早起きしすぎだよ。まだ夜明け前だぞ」。ラーンはにやりと笑った。「今日は違う！テルヘルが言ってたじゃないか、大穴が見つかるかもしれないって！」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観的な性格は彼の最大の持ち味であり、同時に最大の欠点でもあった。特に今回は、報酬額も高く、危険度も高い遺跡探索だった。「大穴」とは、伝説の遺跡で、そこには莫大な財宝が眠っていると噂されていた。
テルヘルは影のある宿屋の一室で彼らを待っていた。彼女の顔はいつもより険しく、テーブルの上には札束が積み上げられていた。「準備はいいか？今日は特に慎重にならなければならない」と彼女は冷たく言った。イシェは札束をちらりと覗き込んだ。その額は尋常ではなかった。
遺跡の入り口は深く暗い洞窟だった。ラーンは先陣を切って入っていった。イシェは後ろから彼を注意深く見つめた。テルヘルは後方を守りながら、地図を広げながら進路を確認した。洞窟内は湿気で冷たく、不気味な影が壁に揺らめいていた。
しばらく進むと、突然、床が崩れ、ラーンは深い穴に転落してしまった。「ラーン！」イシェの声がこだました。テルヘルは素早くロープを投げ下ろした。イシェは駆け寄り、ラーンの手を掴んで引き上げた。彼は顔面蒼白で息を切らしていたが、怪我はなかったようだ。
「あの…何か見つけたみたいだ」ラーンは震える手で指差した。穴の底には、光り輝く石が散らばっていた。「あれは…！」イシェは息をのんだ。それは伝説の宝石「星屑」だった。テルヘルは冷静に言った。「これは大穴ではない。だが、十分な報酬になるだろう」。
三人は宝石を回収し、慎重に洞窟から脱出した。ビレーに戻ると、彼らは札束を前に驚愕した。それは彼らの人生を変えるだけの金額だった。ラーンは興奮気味に言った。「これで俺たち、大金持ちだ！」イシェは少しだけ微笑んだ。確かに、これは大きな一歩だった。しかし、彼にとって「大穴」はまだまだ遠い存在だった。