「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。イシェ、地図を確認してくれ」
ラーンがそう言うと、イシェは眉間に皺を寄せながら羊皮紙を広げた。
「また危険な場所かい?ラーン、本当に大穴が見つかると思っているのか?」
イシェの言葉にラーンは豪快に笑った。
「ああ、もちろんだ!あの塔には古代の王が眠っているという噂もあるぞ。きっと宝の山が…」
ラーンの言葉は自信に満ちていたが、イシェは彼の瞳に映る本心を捉えていた。それは、単なる夢ではなく、現実を逃れるための希望だった。
「いい加減にしろよ、ラーン。現実を見ろ!」
イシェの言葉は厳しいものだったが、ラーンの笑顔は消えなかった。
「大丈夫だ、イシェ。俺には君がいるからな」
ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。
その時、テルヘルが口を開いた。
「いいでしょう。今回は私の指示に従ってください。あの塔にはヴォルダンが欲しがっているものがあるかもしれません」
彼女の瞳は冷酷に輝き、その言葉から本意とは異なる何かを感じ取ったイシェは背筋を凍らせた。
崩れかけた塔へ向かう道中、ラーンの軽快な足取りとイシェの慎重な歩みが不自然なまでに合致していた。それは、互いに依存しながらも、どこかで現実逃避している二人だったからこそ生まれた、歪んだ絆だった。