ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大声をあげて笑い話をするのも、イシェが眉間にしわを寄せてため息をつくのも、いつもより小さく、静かに感じられた。
「あの遺跡で、またしても何も見つからなかったんだろ?」
テルヘルはそう言った。鋭い視線はラーンの顔に突き刺さるように冷たかった。ラーンの表情が曇るのを、イシェは見逃さなかった。
「いや、違う。今回は…何か変わった気がする」
ラーンは言葉を濁すように言った。彼の目は、いつもより遠くを見つめているようだった。イシェは彼の手を握りしめ、静かに励ました。
「そうか。何か変わったんだね」
テルヘルは少しだけ眉を上げ、ラーンの様子を伺った。「一体何があったのか、教えてほしいわ。あの遺跡には何か秘密があるのかも知れない」
ラーンの瞳に、かすかな光が宿った。
「実は…」
彼はゆっくりと話し始めた。遺跡の奥深くで、彼らが見たもの、感じたものについて。それは、まるで失われた文明の残骸から漏れ出す、忘れられた記憶のようなものだった。
テルヘルは興味津々に聞き入っていた。彼女の瞳に宿る光は、単なる好奇心だけではなかった。それは、復讐を誓う彼女にとって、ヴォルダンへの挑戦状となるかもしれない何かを探し求める、執念深い炎だった。
イシェはラーンの言葉を聞きながら、あることに気づいた。彼はいつもと違う。まるで、あの遺跡で何かを見つけたように。そして、それは彼の人生を変えるほどのものかもしれない。
イシェはラーンの手から手を離し、静かに立ち上がった。「私も見せてほしいわ」
彼女は決意を込めて言った。「あの遺跡の秘密を。そして、その先に待つ真実を」
ビレーの薄暗い酒場は、静寂に包まれた。三人の影が、遠くで燃え盛る炎のように、ゆっくりと揺らめいていた。