「よし、今回はあの崩れかけた塔だ」ラーンが目を輝かせた。イシェはため息をつきながら地図を広げた。「また遺跡探しの話か。本当に大穴が見つかると思うのか?」
「見つけるぞ、絶対に見つける!」ラーンの言葉は自信に満ちていた。だが、イシェの視線は彼の背後に広がるヴォルダンとの国境に向いていた。あの国境を越えた先に、テルヘルが復讐を誓う対象がいることを彼女は知っている。
ビレーの街はずれにある廃墟のような塔は、かつて栄華を誇った文明の残骸だった。内部には罠と謎が待ち受けているという噂があった。ラーンはワクワクした様子で剣を抜いた。「よし、行くぞ!」
イシェはテルヘルに視線を向けると、彼女は冷静に首を横に振った。「急いでいるのか?」イシェの声にラーンは少し戸惑いを見せた。だが、彼はすぐにいつもの笑顔を取り戻し、塔へと向かった。イシェはテルヘルの後ろを歩きながら、彼女の目的について考え始めた。
「なぜ、彼女たちはあの大穴を求めるのか?」
イシェ自身も、ビレーの貧困から抜け出したいという夢を持っていた。しかし、ラーンのように無謀な方法でそれを達成しようとは思わなかった。彼女は現実的な方法を探していたのだ。
塔の中は暗く湿っており、埃っぽかった。ラーンが進んでいくと、石畳の上には奇妙なシンボルが刻まれていた。「これは一体何だ?」イシェが呟くと、テルヘルが声を張り上げた。「触るな!」
しかし、時すでに遅しだった。ラーンの足がシンボルに触れた瞬間、塔全体が激しく揺れ始めた。壁から石が崩れ落ち、ラーンは転げ落ちてしまった。イシェは慌てて彼を助け起こした。
「大丈夫か?」イシェの声にラーンは苦笑いした。「ああ、大丈夫だ。だが、これは一体…」 彼はシンボルを見つめた。「何かが起こったようだ」
テルヘルは冷静さを保ちながら、周囲を観察していた。「この遺跡にはまだ秘密があるようだ」彼女は言った。「そして、それは私たちを大穴に導く鍵となるかもしれない」
イシェは彼女の言葉に背筋が寒くなるのを感じた。大穴への道は険しく、危険に満ちていることを彼女は知っていた。そして、その先に待っているものは何なのか?イシェは不安と期待の間で揺れ動いた。